インプラント周囲炎の症状と治療・予防方法

インプラントは、歯根から歯冠まですべて人工物で構成されおり、虫歯になることは絶対にありません。けれども、周囲の組織は生身であり、不潔にしていると歯周病にかかります。いわゆる「インプラント周囲炎」と呼ばれる病気です。
ここではそんなインプラント周囲炎の症状と治療法、予防方法などをわかりやすく解説します。
インプラント周囲炎の症状
インプラント周囲炎で認められる症状は、以下の通りです。
歯茎の腫れ・出血
歯茎への細菌感染によって、炎症反応が生じます。その結果、歯茎の腫れやブラッシング後の出血が認められるようになります。
歯茎が下がる
歯茎が破壊されることで、連結装置であるアバットメントが露出します。一見すると、人工歯が伸びたようにも見えます。
顎の骨が下がる
顎の骨が破壊され、人工歯根であるフィクスチャーが露出します。
歯茎から膿が出る
細菌感染が悪化すると、歯茎から膿が出るようになります。いわゆる「排膿(はいのう)」は、歯茎や顎の骨でたくさんの細菌が繁殖している証拠です。
インプラントがぐらつく
歯周組織がインプラントを支えきれなくなり、グラグラと揺れ動くようになります。末期症状としては、インプラントが自然に脱落します。
インプラント周囲炎の進行レベル
インプラント周囲炎は、以下のような段階を踏んで進行していきます。
レベル0-正常な状態
人工歯根が顎骨としっかり結合しています。人工歯も健康な歯茎に覆われており、審美的にも機能的にも正常です。
レベル1-インプラント周囲粘膜炎
歯茎が赤く腫れ、ブラッシング後に出血が認められることがあります。一般的な歯周病における「歯肉炎(しにくえん)」の状態です。細菌感染が起こっているのは歯茎のみです。これをインプラント周囲粘膜炎といいます。
レベル2-インプラント周囲炎
歯茎だけではなく、歯槽骨まで破壊され始めた状態です。一般的な歯周病における「歯周炎」にあたります。インプラントが揺れ動いたり、歯茎から膿が出たりするなど、深刻な症状が認められます。最終的にはインプラントが脱落します。
インプラント周囲炎の原因
インプラント周囲炎の原因は、いくつかに分けられます。
口腔清掃不良
インプラント周囲炎の主な原因は、不衛生な口腔環境です。とくにインプラントへのケアが不十分だと、その周囲に汚れが堆積し、細菌感染が生じます。
咬み合わせの異常
インプラントの咬み合わせに異常があると、人工歯根に過剰な負担がかかります。その結果、炎症や細菌感染を誘発することがあります。
喫煙習慣
タバコの煙には、歯茎の血管を収縮させるニコチンや酸素の供給を妨げる一酸化炭素が含まれています。いずれも歯周組織の免疫力を低下させることにつながり、インプラント周囲炎のリスクを上昇させます。
糖尿病
糖尿病にかかると、口腔内の乾燥や末梢における免疫力および修復力の低下を招き、歯周病のリスクが上昇します。
インプラント周囲炎の治療方法
インプラント周囲炎の治療は、以下の手順で行われます。
歯垢・歯石の除去
専用の器具を使って、インプラント周囲の歯垢や歯石を除去します。歯のクリーニングやスケーリングと呼ばれる処置です。
患部の殺菌・洗浄
歯と歯茎の間に形成されている「歯周ポケット」へ抗菌薬を作用させます。口腔内全体もうがい薬などを用いて洗浄します。
ブラッシング指導
正しいセルフケアを行えるよう、ブラッシング指導が行われます。
▶インプラント周囲炎にかからないため歯磨きの方法や歯磨きグッズは「インプラントを長持ちさせるための歯磨き・アイテム選びのコツ」の記事をご覧ください。
外科的な治療
上述した治療で症状の改善が認められない場合は、外科的な治療が行われます。フラップ手術や歯肉切除術、歯周組織再生療法などが該当します。
ただし、一般的な歯周炎のような治療効果が得られるとは限りません。インプラントの歯周病が重症化すると、完治させるのは困難であり、結果としてインプラントを取り除かなければならなくなります。
インプラント周囲炎を放置するリスク
インプラント周囲炎は、自然に治ることのない病気です。放置すると、以下に挙げるようなリスクが生じます。
インプラントの脱落
歯周組織が破壊され、インプラントを支える能力が失われます。その結果、インプラントが脱落します。
隣の歯も歯周病になる
歯茎や歯槽骨は連続している組織であり、インプラント周囲にとどまりません。放置すると隣の歯まで歯周病にかかってしまいます。
顎骨炎への波及
インプラント周囲炎を放置して、細菌感染が悪化すると、顎骨炎へ波及することがあります。顎骨炎にかかると、顎の腫れや痛みなどが亢進し、さらなる深刻な状態を招くことになります。
全身疾患のリスクを高める
インプラント周囲炎は、一般的な歯周炎と同様、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病、誤嚥性肺炎などの全身疾患を引き起こしやすくなります。
インプラント周囲炎の予防策
インプラント周囲炎を予防する方法は、セルフケアと定期検診の受診です。
セルフケア
■プラークコントロール
インプラント周囲炎を予防するために最も重要なのは、毎日の歯磨きです。正しい方法でブラッシングすることで、歯垢や歯石の堆積を防止できます。
■リスク因子の除去
糖尿病や喫煙習慣といったリスク因子を抱えている人は、それらを取り除く必要があります。糖尿病は内科での治療、喫煙習慣は禁煙あるいは減煙で対応しましょう。
定期検診
■口腔内診査
お口の中を診査して、歯茎の腫れや排膿の有無を調べます。
■レントゲン検査
顎の骨の状態を確認します。人工歯根との結合状態もチェックします。
■インプラントのチェック
インプラントのネジが緩んでいないか、ぐらつきがないか調べます。
■インプラントのクリーニング
インプラント周囲のクリーニングを行います。
■ブラッシング指導
口腔清掃状態をチェックした上で、ブラッシング指導を行います。
▶インプラント周囲炎にかからないためのメンテナンス方法を知りたい方は「正しいメンテナンスでインプラントの寿命を延ばそう」の記事をご覧ください。
まとめ
このように、インプラント周囲炎はお口の中が不潔になることで発症する病気です。その他、生活習慣や全身の病気がリスク因子となることもあります。最終的には、インプラントが抜け落ちる病気であり、可能な限り予防することが大切です。
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■インプラント治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/inpurantochiryo-interview
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▼このコラムは歯科医師によって執筆・監修されています▼
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長崎大学歯学部歯学科卒業