正しいメンテナンスでインプラントの寿命を延ばそう
インプラントは、天然歯にそっくりな見た目、噛み心地を手に入れられる素晴らしい治療法です。けれども、治療後のケアを怠ると、さまざまなトラブルが生じて、寿命も縮まっていきます。ここではそんな「インプラントがダメになる理由」や「定期検診の重要性」などをわかりやすく解説します。
インプラントがダメになる理由
インプラントが虫歯なるリスクは、ゼロです。どんなにケアを怠っても、インプラントが虫歯菌によって溶かされることはないのです。けれども、「インプラントがダメになる理由」が2つあります。
細菌感染症
インプラントは人工物であっても、その周囲にある組織は生きた細胞で構成されています。つまり、インプラントでも天然歯と同様、歯周病にはかかるのです。
しかも、「インプラント周囲粘膜炎」や「インプラント周囲炎」といった特別な病名が存在するくらい、歯周病の発症リスクは高くなっています。進行した歯周病では、インプラントを支えきれなくなり、人工歯根の脱落が起こります。これはインプラントがダメになる主な理由のひとつです。
破損
インプラントを構成するパーツが破損することでも、治療の失敗が起こります。比較的起こりやすいのは、被せ物である上部構造の破損です。インプラントに過剰な圧力がかかると、セラミック製の人工歯が割れたりします。
その他、各パーツをつなぐネジの損傷やアバットメントの故障なども、インプラントがダメになる理由として挙げられます。
インプラントのメンテナンスは定期健診が重要
インプラントの破損や故障、感染症などを予防するためには、プロフェッショナルによるメンテナンスが欠かせません。インプラントの定期検診では、以下のような診査やプロフェッショナルケアを受けることができます。
口腔内診査
お口の中の状態を歯科医師が肉眼で確認します。インプラントの清掃状態や周囲粘膜の性状、咬み合わせのチェックなどを行います。特に歯周病検査は、専用のプローブ(歯周ポケットを探る道具)を用いてインプラント表面を傷つけないよう慎重に行われます。インプラントのネジの緩みなども、この段階で確認します。
レントゲン撮影
レントゲン撮影を行って、人工歯根と顎の骨の状態を確認します。残った歯の根っこの状態なども併せてチェックします。
クリーニング
プロフェッショナルによる歯の清掃である「PMTC」を実施します。歯ブラシでは落とすことのできない汚れを一掃します。
ブラッシング指導
インプラントは、天然歯よりも汚れが付着しやすいです。それは特徴的な形状を呈する歯と歯茎の境目付近で顕著となります。ですから、天然歯と同じようにブラッシングしていては、磨き残しが生じてしまいますので、プロフェッショナルから正しいブラッシング法を教わりましょう。そうすることで、セルフケアの質が高まります。
インプラントの定期健診の頻度と値段
インプラントの定期検診については、どのくらいの頻度で通うべきなのか、また、どのくらいの費用がかかるのかも知りたいところですよね。
定期検診の頻度
インプラントの定期検診の頻度は、患者さんのお口の状態や埋入本数、治療法の種類などによって変わります。最初の1年間は、多くのケースで3ヶ月に1回程度の頻度が推奨されます。その後は、4~6ヶ月に1回程度の頻度となります。お口の中に問題がある場合は、もう少し高頻度で受診する必要が出てきます。
定期検診の値段
インプラントの定期検診の値段は、3,000~5,000円程度が一般的です。それほど高額な費用はかからないのでご安心ください。ちなみに、保険は適用されません。
メンテナンスをさぼるとどうなる?
セルフケアだけに専念し、インプラントのメンテナンスを怠ると、以下に挙げるようなトラブルが生じます。
インプラント周囲炎の発症
メンテナンスをさぼると、インプラント周囲炎のリスクが上昇します。インプラント周囲に汚れがたまり、歯周炎と同じような症状を引き起こす病気です。定期的なプロフェッショナルケアを受けることで、そのリスクを下げられます。
▶インプラント周囲炎について詳しく知りたい方は「インプラント周囲炎の症状と治療・予防方法」の記事をご覧ください。
インプラントの故障
インプラントのネジの緩みや咬み合わせの異常を放置すると、上部構造の破損を招きます。深刻なケースでは、人工歯根に過剰な負担がかかり、顎の骨を吸収させるようなこともあります。そういう観点からも、インプラント各パーツの点検や咬合診査は定期的に行う必要があります。
保証が受けられなくなる
一般的なインプラント治療には、10年保証が付いています。インプラントに何らかのトラブルが生じても、保証期間内であれば無償で対応してくれるサービスです。ただし、一定の条件を満たしていなければなりません。その条件のひとつに、定期的なメンテナンスの受診が含まれています。
引っ越しで歯医者を変える際の注意点
インプラントは10年、20年と非常に長い間、使用し続けることができる補綴物です。そのため、どこかのタイミングで引っ越しを経験される方も少なくありません。その際には、以下の点に注意してください。
主治医に紹介状を書いてもらう
引っ越し後に、別の歯科医院でメンテナンス等を受ける場合は、あらかじめ主治医に紹介状(診療情報提供書)を書いてもらいましょう。インプラントの種類や治療の経過などを伝達することで、転居先の歯科医院がスムーズに治療を引き継ぐことができます。
インプラントの種類を確認しておく
状況によっては、主治医に紹介状を書いてもらえないこともあるかと思います。そうしたケースでは、自分が受けたインプラント治療の詳細について、記録しておきましょう。とりわけインプラントシステムの製造元や種類、インプラントのサイズは、重要な情報となります。インプラントに関する詳細な情報があれば、引っ越し先でもメンテナンス等を引き継げる歯医者さんを探しやすくなります。
保証が受けられなくなる
引っ越しによって受診する歯科医院が変わった場合は、基本的にインプラント保証が受けられなくなります。その点も事前に把握しておきましょう。
▶インプラント治療中、治療後に引っ越す場合の注意点は「引っ越ししたら困る!?インプラント治療の引継ぎ」の記事をご覧ください。
インプラントのセルフメンテナンス
インプラントのセルフメンテナンスは、天然歯のそれと大きな違いはありません。以下に挙げるようなオーラルケアを実施することで、衛生的な状態を保つことができます。ただし、細かいケアの方法は天然歯と少し異なりますので、「インプラント 歯磨き」のページを参考にしてください。
ブラッシング
歯ブラシによるブラッシングが基本となります。歯と歯茎の境目付近は汚れが溜まりやすく、天然歯以上に丁寧に磨かなければなりません。
フロッシング
歯と歯の間の汚れはフロスによって除去します。
デンタルリンス
デンタルリンスを用いることで、口腔内の細菌の数を減らすことができます。歯周病予防のためにも積極的に活用しましょう。
▶インプラントの歯磨きの方法と歯磨きグッズの選び方は「インプラントを長持ちさせるための歯磨き・アイテム選びのコツ」の記事をご覧ください。
まとめ
このように、インプラントの寿命は定期的なメンテナンスを受けることで延長できます。逆にいうと、不十分なケアでは、インプラントの寿命がどんどん縮まっていくため注意が必要です。
せっかく長い時間と高額な費用をかけて装着したインプラントですから、できれば一生涯使い続けたいものですよね。そのためには、適切なセルフケアとプロケアを継続するのが一番です。
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■他のインプラント治療のコラム:https://teech.jp/column/inpurantochiryo
■インプラント治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/inpurantochiryo-interview
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▼このコラムは歯科医師によって執筆・監修されています▼
【コラム執筆歯科医師の紹介】
運営サイト:「みんなの歯学」https://minna-shigaku.com
長崎大学歯学部歯学科卒業