健康と費用で比較したい60代、70代以上のインプラント治療
60代、70代と年を重ねていくと、歯を失うことも多くなります。失った歯を何もせずに放っておくと、さまざまな悪影響が生じるため、何らかの治療で補わなければなりません。そこで選択肢として挙がりやすいのがインプラントです。
インプラントは見た目が美しく、咬み心地も良好なので、是非とも受けたいという方も多いですが、年齢的に健康面のトラブルが懸念されます。
また、費用が比較的高額なため、老後の生活費等に不安を感じている人もいらっしゃることでしょう。 ここではそんな60代、70代で受ける補綴(失った歯を補う)治療についてわかりやすく解説します。親御さんの歯の健康のためにインプラント治療をリサーチしている方も、参考にしてみてください。
歯を失った時の対処法~インプラントvsブリッジvs入れ歯
失った歯を補う治療法は、インプラント、ブリッジ、入れ歯の3種類があります。ここではそれぞれのメリット・デメリットについて簡単にご紹介します。
インプラント
■メリット
・見た目が美しい
インプラントには、見た目が美しいというメリットがあります。60代、70代になっても口元を美しく保ちたいですよね。インプラントであれば、天然歯にそっくりな状態まで欠損部を回復させることが可能です。
・咬み心地がいい
人工歯根が存在することから、食べ物をしっかり咬むことができます。硬いものや咬み切りにくいものでも、気にせず口にできます。食生活が豊かになるのは、人生そのものに良い影響を与えます。
・残った歯に負担がかからない
インプラントは、独立した装置です。治療中も治療後も、残った歯に負担をかけることはありません。残存歯の健康維持に大きく寄与します。
・顎の骨が痩せていかない
60代、70代になると、顎の骨の吸収(骨が痩せること)が進んでいきます。これは顎の骨への刺激が減っていくからです。インプラントであれば、咬んだ時の力が人工歯根を介して顎骨へと伝わることから“顎の骨が痩せる”という現象を抑制できます。
■デメリット
・保険が適用されない
インプラント治療は、保険が適用されないため、費用が比較的高額になります。
・外科手術が必要
インプラント治療では、人工歯根を顎の骨に埋め込む手術が必須です。手術に耐えられるような体力が求められます。
▶インプラントが保険適用外でなる理由や例外については「インプラント治療が保険適用される条件は?」の記事をご確認ください。
ブリッジ
■メリット
・保険が適用される
ブリッジによる治療では、保険が適用されます。
・違和感、異物感が小さい
ブリッジは固定式の装置であり、入れ歯よりは違和感、異物感が小さいですが、インプラントほど快適ではありません。
・手術がいらない
ブリッジでは支えとなる歯を削る必要はありますが、外科手術は不要です。持病など、全身状態に不安な要素がある方でも、問題なく受けることができます。
■デメリット
・健康な歯を削らなければならない
ブリッジの最大のデメリットは、健康な歯を削らなければならない、という点です。欠損部の両隣の健康な歯を支えとして、大型の被せ物を装着しなければならないからです。切削量は一般的な被せ物治療と同程度です。
・顎の骨が痩せていく
ブリッジには人工歯根がないため、顎の骨が経年的に痩せていきます。
・残った歯に負担がかかる
支台歯への負担は、治療時だけでなく、治療後も継続します。咬んだ時の力は支台歯が受け止めるため、残った歯の寿命は短くなりがちです。
入れ歯
■メリット
・保険が適用される
入れ歯治療には保険が適用されることから、費用が比較的安くなります。
・治療期間が短い
入れ歯治療にかかる期間は、1ヶ月程度と比較的短いです。
・調整や修理が容易
入れ歯は故障しやすい装置ですが、同時に修理も容易です。調整も簡単に行うことができます。
■デメリット
・違和感、異物感が大きい
入れ歯は大型の着脱式装置なので、違和感・異物感が大きいです。
・咬みにくい、しゃべりにくい
お口の中にしっかり固定できないことから、ズレたり、外れたりすることがあります。咬みにくさやしゃべりにくさを感じるケースも少なくありません。
・顎の骨が痩せていく
咬んだ時の力が顎の骨に伝わらないので、顎骨の吸収が起こりやすいです。
・装置の寿命が短い
入れ歯の寿命は5~6年程度が一般的です。10~15年は持つインプラントと比較すると、寿命の短さが際立ちます。
▶インプラント、ブリッジ、入れ歯の違いをさらに詳しく知りたい方は「徹底比較!インプラント・ブリッジ・入れ歯の違い」の記事をご確認ください。
60代、70代からインプラント治療するメリット
インプラント治療には、60代、70代だからこそ得られるメリットもあります。
認知症のリスクを軽減できる
60代、70代でリスクが大きく上昇する病気に「認知症」があります。認知症はいろいろな要因が重なることで発症する病気であり、確実な予防法はありませんが“しっかり咬める”ことは重要です。
歯を失って咬む力が弱まると、認知症のリスクが最大1.9倍まで上昇するといわれています。インプラントなら天然歯のようにしっかり咬めることから、認知症のリスクも軽減できます。
▶参考資料:日本歯科医師会「いい歯は毎日を元気に」プロジェクト
若々しく見える
入れ歯のような大型の装置は、どうしても違和感が大きくなってしまいます。入れ歯を装着することで老け顔になってしまう人も少なくありません。天然歯と同じ構造のインプラントなら、60代、70代になっても若々しさを維持することが可能です。
若い時と同じ咬み心地
これまで入れ歯を使用してきた人がインプラントに切り替えると、咬み心地の良さに驚かれます。若い時と同じ咬み心地を取り戻せることから、食生活も充実します。
おしゃべりが楽しくなる
ズレたり外れたりすることが多い入れ歯は、食べることはもちろん、しゃべることさえ億劫になってしまいますよね。インプラントであれば、ズレたり外れたりすることもなく、楽しくおしゃべりできます。
60代、70代からインプラント治療するデメリット
60代、70代でインプラント治療をする際には、以下に挙げるようなデメリットが生じます。
持病による悪影響
60代、70代の方で糖尿棒や高血圧症などの持病、脳梗塞・心筋梗塞の既往がある場合は、インプラント治療ができるケースとできないケースに分けられます。
■インプラント治療ができるケース
治療や薬剤の服用によって、全身状態が安定してれば、インプラント治療可能です。医科の先生と連携しながら、体調を整えていきましょう。
■インプラント治療ができないケース
持病による血圧の急上昇や出血傾向を治療によって抑えられない場合は、インプラント治療が難しくなります。インプラント手術中に深刻なトラブルが起こりかねないからです。その他の治療法を検討しましょう。
感染症のリスクが高い
60代、70代の人は、若者よりも免疫力が低くなっており、感染症のリスクが高まっています。インプラント手術を行う際には、徹底した感染予防対策が必要となります。
若い人よりも体力が少ない
インプラント手術はそれほど大掛かりな処置ではありませんが、それなりの体力を要します。手術前には体力・気力ともに充実させておかなければなりません。
顎の骨量が少ない
顎の骨量は、加齢に伴って減少していきます。60代、70代では、インプラント治療が行えない状態まで顎骨の吸収が進んでいる場合もあります。
治療後のお手入れが大切
インプラントは治療後のお手入れが極めて重要な装置です。適切なセルフケアを行えることはもちろん、定期的なメンテナンスの受診も不可欠です。
それらを怠るとインプラント周囲炎などのトラブルが起こりやすくなります。加齢のためインプラントや口腔内のケガが十分に行えない場合は、その他の治療法が望ましいといえます。
60代、70代からの歯医者さんの選び方
60代、70でインプラント治療を検討する場合は、以下の点に注意して歯医者さんを選びましょう。
身体の負担を考慮してくれる
歯の治療によって全身の健康が害されてしまったら元も子もありません。全身状態や身体への負担を考慮してくれる歯医者さんを探しましょう。
通いやすい
インプラントは治療後も定期的な通院が必要となります。自宅から通いやすいというのは、60代、70代の人にとって非常に重要なポイントとなります。
将来を見据えた治療を提案してくれる
歯の治療は計画的に行うことで、お口全体の健康維持につながります。その場限りの治療ではなく、将来を見据えた治療計画を提案してくれる歯医者さんが望ましいです。
まとめ
このように、60代、70代でインプラントを検討する際には、費用や健康面などさまざまな点を考慮する必要が出てきます。
とくに持病に関してはケースバイケースとなりやすいので、60代、70代でインプラントを考えている方、もしくはそのご家族は、まず歯医者さんに相談することをおすすめします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■他のインプラント治療のコラム:https://teech.jp/column/inpurantochiryo
■インプラント治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/inpurantochiryo-interview
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
▼このコラムは歯科医師によって執筆・監修されています▼
【コラム執筆歯科医師の紹介】
運営サイト:「みんなの歯学」https://minna-shigaku.com
長崎大学歯学部歯学科卒業