インプラント治療の失敗・トラブルと対策
インプラントが普及して、かなりの年数が経ちますが、やはり、治療に対する不安や恐怖心を拭えない方もいらっしゃることかと思います。
確かに、インプラント治療にも失敗やトラブルが起こる可能性がありますが、同時に対策法も確立されています。ここではそんなインプラント治療で起こり得る失敗・トラブルについて、対策法も含め詳しく解説します。
インプラント治療の失敗原因
インプラント治療の失敗は、以下の4つのケースが挙げられます。
骨造成の不備
不足している顎の骨を再生および増生する治療法です。顎の骨の深さや幅、密度が足りない場合に適応されます。骨造成に不備があると、人工歯根を埋入しても顎の骨に定着せず、インプラント治療が失敗します。
■原因
骨造成は、とても高度な治療法です。診療実績豊富な歯科医師でなければ、適切な処置を施すのが困難です。経験の浅い歯科医師が担当すると、診断の時点で見誤ることもあります。
つまり、骨造成で十分な骨を確保できないにも関わらず、治療を進めてしまうケースです。手術時に操作を誤ることでも、骨造成に不備が生じることがあります。
■予防・解決策
骨造成を適切に行う上で何より重要なのは、精密な診断です。レントゲンやCTの画像を見て、正しく診断できる歯科医師に治療をお願いしましょう。骨造成術の経験が豊富であることも不可欠です。
▶インプラント治療における骨造成の治療法は「インプラント治療で骨造成手術は必要?」の記事をご覧ください。
下顎管の損傷
下顎のインプラントで最も注意すべきリスクは、下顎管の損傷です。下顎管には、下歯槽神経や下歯槽動静脈といった重要な組織が収められています。人工埋入の際にこれらを傷つけると、術後の神経麻痺や術中の大量出血を招きます。当然、インプラント治療も失敗に終わります。
■原因
下顎管を損傷する原因は、主に2つです。事前の検査が不十分で、下顎管の位置を正確に把握していなかった場合と、術中の操作を誤った場合に、下顎管の損傷が起こります。
■予防・解決策
下顎管の正確な位置を把握するためには、3次元的な画像が得られる歯科用CT撮影が不可欠です。また、コンピューター上でのシミュレーションも下顎管損傷の予防に寄与します。実際の埋入処置は、経験豊富な歯科医師ほど正確性が向上します。
上顎洞へのインプラント迷入
上顎骨のすぐ上にある「上顎洞(じょうがくどう)」へと人工歯根が突き出てしまうトラブルです。深刻なケースでは、人工歯根そのものが上顎洞へとすっぽり入り込む「迷入」が起こります。これは上顎へのインプラントで、最も避けるべきトラブルのひとつです。
■原因
上顎洞へのインプラント迷入は、上顎骨と上顎洞との距離を見誤ることで生じます。つまり、画像検査の段階で誤診をしているか、埋入手術の際に勘に頼った操作を行うことが主な原因となります。
■予防・解決策
上顎洞へのインプラント迷入は、歯科用CTを用いた精密診断で回避することができます。CT撮影によって得られたデータを元に、コンピューターシミュレーションを行うことで、適切な深さに人工歯根を埋入することが可能となります。
診療経験が豊富であっても、CT撮影を行わず、勘に頼った手術を行う歯科医師は避けるようにしましょう。
オーバーヒート
顎の骨に人工歯根を埋め込む際には、インプラント専用のドリルを用います。ドリルの回転速度が速すぎると、骨との間に過剰な摩擦が起こり、発熱します。これがオーバーヒートです。オーバーヒートが起こると、骨に存在する細胞が死滅し、人工歯根との結合も達成されなくなります。
■原因
オーバーヒートが生じる原因は、速すぎるドリリングです。適切な速度のドリリングでも、注水を怠ることで、オーバーヒートすることもあります。
■予防・解決策
適切な速度のドリリングと間断なく注水することがオーバーヒートの予防策です。インプラント手術の経験豊富な歯科医師および歯科衛生士であれば、正しい処置を行うことができます。
【過去のインプラント事故】
インプラント治療は怖い、というマイナスなイメージが広がったのは、2007年に起こった死亡事故による社会的な影響が大きかったといえます。失った歯を補う治療であるにも関わらず、手術によって命を落とすリスクは、どう考えても見合うものではありません。
ただし、この事故は、起こるべくして起こったものではなく、さまざまな偶然が重なった結果であるということを知っておいてください。
なぜなら、執刀した歯科医師は、インプラント治療のプロフェッショナルであり、死亡事故を起こすまで3万本以上のインプラントを埋入した経験がありました。患者さんが死亡に至った経緯も上述したようなトラブルからではなく、「オトガイ下動脈の損傷」という少しレアなケースであった点も確認しておきましょう。
オトガイ下動脈というのは、歯列の内側に存在している血管で、これを損傷すると、口腔底や舌付近に大量出血が生じ、気道閉塞を招きます。この事件においても、気道閉塞による窒息が死因として結論付けられています。
こうした死亡事故が起こる可能性は極めて稀ではありますが、これを機に歯科用CTやインプラントのシミュレーションソフトを導入した歯科医院が増えたのも事実です。
皆さんも万全を期すのであれば、そうした安全に対する意識が高い歯科医院に治療をお願いするのが一番です。インプラントは、人生においてとても重要な治療となるので、最善といえる歯科医師を見つけましょう。
インプラント部品のトラブル
インプラント治療の失敗は、部品によるトラブルが生じることもあります。
骨との適合が悪い
人工歯根と骨との適合が悪いと、インプラント治療は失敗に終わります。
■原因
人工歯根であるフィクスチャーには、いろいろなタイプが存在しています。人工歯根の形態や表面加工、構成している材料によって、骨との適合性も大きく変わります。その患者さんに合っていない人工歯根を選択すると、上手く適合しないことがあります。
■予防・解決策
精密な診断を行い、適切な人工歯根を選択することが大切です。当然ですが、フィクスチャーの取り扱いを誤って、傷をつけたり、コーティングをはがしたりすることでも骨との結合が悪くなります。そのため、正しい手術を行える歯科医院に治療をお願いするのが何よりの解決策です。
咬み合わせが悪い
咬み合わせが悪いと、インプラントに過剰な負担がかかり、人工歯根の脱落や破損を招くことがあります。
■原因
アバットメント(上部構造とインプラント体を繋ぐ部品)を介して装着する上部構造は、咬み合わせの調整を行わなければなりません。この調整が不十分で、上部構造の位置が高すぎたりすると、インプラントに負担が集中します。
■予防・解決策
上部構造装着時の咬み合わせを綿密に行う必要があります。咬み合わせが高い、強く当たる部分がある、といった症状が認められたら、歯科医師に相談しましょう。咬み合わせの検査を行った上で、適切な調整を加えてもらえます。
前歯の形が悪い
前歯のインプラントは、高い審美性が要求されます。上部構造の装着後に、強い違和感を覚えるケースも珍しくありません。
■原因
上部構造が大きすぎたり、周囲の歯の色や形と調和していなかったりすると、違和感が強くなります。
■予防・解決策
機能性だけではなく、審美性にも配慮した歯科医師に治療をお願いしましょう。セラミック治療なども行っている歯科医院であれば、審美面への配慮にも慣れていることかと思います。これまでのインプラント治療の症例を画像で見せてもらうことも大切です。前歯の上部構造がきれいな形で製作されているか確認しましょう。
▶インプラント治療の前歯の重要性について確認したい方は「前歯のインプラント治療は審美性が重要」の記事をご覧ください。
インプラント治療後のトラブル
インプラント治療後には、以下に挙げるようなトラブルが生じ得ます。
感染症
インプラント治療後には「インプラント周囲炎」という感染症のリスクが存在しています。手術前の歯周病治療に不備があると、外科処置に伴って細菌感染が起こることもあります。
▶インプラント周囲炎とは何か知りたい方は「インプラント周囲炎の症状と治療・予防方法」の記事をご覧ください。
■原因
手術中、手術後の口腔衛生状態が悪いことで、細菌感染が引き起こされます。
■予防・解決策
手術前の歯周病治療をしっかり行うこと、衛生的な環境で埋入手術を実施することで感染症の発症リスクを抑えられます。
インプラントの緩み
人工歯根やアバットメント、上部構造などはネジで連結されるタイプが多いです。そのネジが緩むと、それぞれのパーツに不具合が生じたり、脱落を招いたりします。
■原因
ネジを適切な位置まで回していないと、徐々に緩んでいってしまいます。咬み合わせが悪く、過剰な力が加わることでも、ネジが緩むことがあります。
■予防・解決策
インプラントの埋入やネジの回転を適切に行うことで、緩みを予防することができます。メンテナンスを受けて、ネジの緩みや不具合を定期的に調べることも大切です。
口唇付近のしびれ・感覚の麻痺
インプラント手術後には、口唇付近のしびれや感覚の麻痺が生じることがあります。
■原因
埋入手術で下歯槽神経を損傷すると、口唇付近のしびれや感覚の麻痺が生じます。
■予防・解決策
下顎のインプラントでは、下歯槽神経を損傷しないよう注意することで、こうした症状を予防できます。歯科用CTによる精密診断および正確な埋入処置を行える歯医者さんに治療をお願いしましょう。
痛み
インプラント手術後には、少なからず痛みが生じます。その痛みが過剰な場合や長引く場合は、何らかの異常が疑われます。
■原因
人工歯根の埋入処置を失敗して、周囲の組織を傷つけた場合、術後に痛みが持続することがあります。また、細菌感染が生じた場合も強い痛みを伴います。
■予防・解決策
衛生的な環境で、正確な埋入処置を行うことで、周囲組織への悪影響や細菌感染は予防できます。
▶インプラント治療や治療後の痛みについて知りたい方は「インプラント治療の痛みと対処法」の記事をご覧ください。
腫れ
インプラント手術後の腫れは、個人差はあるものの誰にでも起こり得ます。腫れが強く、なかなか引かない場合は、何らかの異常が疑われます。
■原因
人工歯根を埋入した部位に細菌感染が起こると、強い腫れが生じます。
■予防・解決策
細菌感染が起こらないよう、衛生面に配慮したインプラント手術を行う必要があります。患者さん自身も術後の口腔ケアに配慮しなければなりません。手術後、口腔内が不衛生になると、傷口から細菌が感染します。
インプラントの破損
インプラントの破損が起こると、治療は失敗に終わります。人工歯根を撤去し、その他の治療法で欠損部を回復させなければなりません。
■原因
インプラントの破損は、咬み合わせの異常で起こりやすいです。咬み合わせが高く、過剰な力が上部構造や人工歯根へと加わることで、それぞれのパーツが破損します。人工歯根の埋入位置や埋入処置に不備が合った場合もインプラントの破損につながることがあります。
■予防・解決策
正しい方法で、正しい位置にインプラントを埋入することが大切です。咬み合わせの調整や定期的なメンテナンスを行うことで、不具合が早期に解消され、インプラントの破損を防止できます。
インプラントが外れる
インプラントの治療の失敗で最も深刻なのは、人工歯根の脱落です。手術によって埋め込んだ人工歯根がすっぽり抜け落ちてしまうのは、治療そのものに根本的な間違いやミスが存在していたことを意味します。治療後しばらくしてインプラントが外れた場合は、患者さんのケアに原因があります。
■原因
顎の骨がインプラント治療に適していない状態だと、インプラントが定着せずに外れます。ドリリングによるオーバーヒートで、骨の細胞が死ぬことでもインプラントが定着せず、結果として外れることがあります。
その他、治療後の口腔ケアが不十分で、インプラント周囲炎にかかったり、メンテナンスを怠って不具合を放置したりすることでも、インプラントが外れることがあります。
■予防・解決策
正しい方法でインプラント手術を実施すれば、人工歯根はしっかり定着します。必要な処置を省かず、ていねいに治療してくれる歯医者さんを選びましょう。治療後の口腔ケアやメンテナンスをしっかり行うことでも“インプラントが外れる”という失敗は免れます。
▶インプラントが取れた時の詳しい対処法を知りたい方は「インプラントが取れる原因と対処法」の記事をご覧ください。
インプラント治療の保証
インプラント治療には、保証制度が設けられています。保証の内容や料金、期間などは歯科医院によって異なるため、ここでは一般的なケースを想定して解説します。
保証内容
インプラント治療の保証制度では、主に人工歯根、アバットメント、上部構造が「欠ける」「割れる」「抜ける」といったトラブルに見舞われたケースに利用できます。その際、必要となった再治療や再手術の費用を一切負担せずに受けることが可能となります。保証内容によっては、一部負担しなければならないこともあります。
保証料金
インプラントの保証料金は、治療費に含まれているのが一般的です。ケースによっては、別途、数万円支払うこともあります。
保証期間
人工歯根であるフィクスチャーの保証期間は、5~10年で、人工歯は3~10年程度です。
保証が受けられないケース
以下に挙げるようなケースでは、保証の対象外となり得るため注意が必要です。
・交通事故等によるインプラントの破損
・保証対象外の歯科医院で治療を受けた場合
・禁煙やメンテナンスの受診等、提示された条件を満たさない場合
まとめ
このように、インプラント治療には失敗やトラブルのリスクが伴いますが、適切な対策を講じることで、そのリスクを減少させることが可能です。その上で重要なのは、インプラント治療が得意な歯医者さんを見つけることです。
最近では、インプラント治療に対応している歯科医院が急増していますが、その中でも信頼できる歯医者さんを慎重に選ぶことが大切です。
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■他のインプラント治療のコラム:https://teech.jp/column/inpurantochiryo
■インプラント治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/inpurantochiryo-interview
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長崎大学歯学部歯学科卒業