高額だからこそ把握しておくべき矯正歯科治療のメリット・デメリット
矯正歯科治療によって歯並びが整えば、見た目が美しくなり、長年のコンプレックスを解消できます。歯磨きしやすくなることで、虫歯や歯周病のリスクも軽減されます。さらには、咀嚼機能が向上し、消化器への負担も軽くなるのです。
ただ、どんな医療にも必ずデメリットやリスクが伴います。ここではそんな矯正歯科治療のメリットだけではなく、デメリットやリスクについても詳しく解説します。
矯正歯科治療のデメリットと対処法
矯正歯科治療には、以下に挙げるようなデメリットが伴います。
治療費が高額
■理由
矯正歯科治療は、一部の例外を除いて、原則的に保険が適用されません。
つまり、全額自己負担となることから、治療費が比較的高額になってしまうのです。また、矯正歯科治療には特別な装置や技術が必要であったり、治療期間が数年に及んだりする点も費用の高さに関係しています。
■対処法
自費診療である矯正歯科治療は、歯科医院によって設定している料金が異なります。費用を抑えたいのであれば、適正価格もしくはそれより少し安い料金で矯正してくれる歯科医院を探しましょう。
それでも基本的には数十万円の費用がかかることから、デンタルローンによる分割払いを利用も視野に入れることをおすすめします。デンタルローンを組めれば、毎月数万円の支払いで矯正歯科治療が受けられます。
▶矯正歯科治療の費用相場は「矯正歯科治療が高額な理由と費用の内訳を解説」の記事をご覧ください。
治療期間が長い
■理由
歯は歯槽骨と呼ばれる硬い組織に埋まっており、それを人為的に動かそうとすると、かなりの期間を要します。私たちの歯はそもそも強引に動かせるものではないからです。それを専門的な知識と技術を駆使して実現するのが矯正歯科治療です。
そのため、歯列全体を整える「全顎矯正(ぜんがくきょうせい)」では、数年に及ぶ治療期間が必須となっています。
■対処法
治療期間を極端に短くしたいのであれば、歯列の一部分だけを整える「部分矯正」がおすすめです。治療期間は、ほとんどのケースで6~12ヶ月程度にとどまります。
早ければ3ヶ月で完了することもあります。 全顎矯正の場合は、技術の高い歯科医師にお願いすることで治療期間を短縮できることがあります。
また、矯正用のインプラントを用いると、効率良く歯を動かせるようになり、治療期間が大幅に短縮されます。
見た目が悪い
■理由
最も標準的な歯列矯正では、金属製のワイヤーとブラケットを歯面に設置することから、見た目が悪くなるというデメリットが生じます。
■対処法
表面が白くコーティングされたホワイトワイヤーやプラスチックおよびセラミックなどで作られた審美ブラケットを選択することで、審美性の低下は防げます。
透明な樹脂製のマウスピースを用いる矯正法であれば、そもそも口元の審美性が大きく低下することもありません。
歯磨きが大変
■理由
矯正用ワイヤーとマルチブラケットが設置されていると、食べかすなどの汚れがたまりやすくなります。歯ブラシによるブラッシングでは、汚れをきれいに取り除くのが困難となります。
■対処法
ワイヤー矯正を受ける人は、歯ブラシによるブラッシングだけではなく、デンタルフロスによるフロッシングやワンタフトブラシ、歯間ブラシなども用いた口腔ケアに努めましょう。
矯正装置を装着したままの歯磨きにはコツが必要ですが、慣れればきれいに磨けるようになります。プロフェッショナルによるブラッシング指導を受けることも必須です。
咬みにくい
■理由
矯正装置の形態や設置されている場所によっては、咬みにくいと感じることがあります。食べ物を咬んだ時に食物が装置と当たり、咀嚼運動を阻害するからです。
■対処法
矯正装置によってそしゃく運動が著しく阻害される場合は、歯医者さんでワイヤーやブラケットを調整してもらいましょう。咬みにくさがそれほど強くないケースでは、時間とともに慣れてきます。マウスピース型矯正装置なら、食事の際に必ず取り外すので、咬みにくいと感じることはありません。
しゃべりづらい
■理由
ワイヤー矯正や裏側矯正では、歯面に金属製ワイヤーとブラケットを設置することから、少なからず発音障害が現れます。これは舌や口腔周囲の筋肉の運動が阻害されるからです。
■対処法
矯正装置による発音障害は、慣れることが第一です。私たちのお口の中はとてもデリケートに作られており、矯正装置のような大きな異物が存在していると、正常に発音できなくなるのは当然といえます。
ただ、そうした変化に慣れるのも早いので、まずは1~2週間頑張ってみましょう。 発音障害が重度の場合は、装置の調整で改善します。
そもそも“しゃべりづらい”という症状を回避したいのであれば、マウスピース型矯正装置がおすすめです。マウスピース型矯正装置は、厚みが0.5mm程度しかなく、歯列に沿った形態に仕上がっていることから、しゃべりづらいと感じることもほとんどありません。
痛みがある
■理由
歯を動かす際には、少なからず痛みや不快感を伴います。顎の骨に固定されている歯を強引に移動するのが矯正歯科治療ですので、ある程度の痛みや不快感は誰にでも生じます。その他、矯正装置が口腔粘膜に当たることで痛いと感じるケースもあります。
■対処法
矯正装置を装着、あるいは調整してから1週間程度は、痛みを感じることも多くなります。最も強い力が歯にかかっているからです。それ以降は徐々に痛みも軽くなっていくため、しばらくは頑張って我慢してみましょう。我慢できないほどの痛みは、矯正装置に問題があるので、すぐに歯医者さんを受診してください。装置の調整等で、痛みを和らげることができます。
矯正装置が歯茎や舌などに当たって痛い場合も調整が必要となります。そうした物理的刺激による痛みは、我慢すると粘膜に潰瘍などを生じさせるため、早急に対処する必要があります。
ちなみにマウスピース型矯正では、比較的弱い力で歯並びを整えるため、歯の移動に伴う痛みも小さくなっています。装置による物理的刺激もほとんどありません。
▶矯正歯科治療における痛みの原因と対処法は「歯の矯正(矯正歯科治療)~4種類の痛みと痛む期間・緩和策~」の記事をご覧ください。
歯列の状態によっては抜歯が必要
■理由
歯並びの乱れの原因がスペース不足にある場合は、抜歯が必要となります。一般的には、第一小臼歯や第二小臼歯(親知らずから数えて4、5本目の歯)を抜いて、不足しているスペースを確保します。虫歯や歯周病にかかっていない健康な歯を抜くため、強い抵抗を感じる人も少なくありません。
■対処法
矯正に伴う抜歯がどうしても嫌な人は、抜歯をせずに歯並びを整える治療法を検討しましょう。スペースの不足が軽度であれば、歯の側面を削ることによって対応できるケースもあります。
もしくは、経験豊富な矯正医であれば、知識や技術を駆使して、非抜歯による矯正を実現してくれるかもしれません。
ただ、矯正における抜歯は、基本的にメリットの方が優っているケースがほとんどです。抜歯の対象となる歯も、審美性や機能性に影響が少ない小臼歯が優先的に選ばれるので、便宜抜歯(べんぎばっし)をそれほど悪いものとは考えない方が賢明といえます。
矯正歯科治療のリスク
矯正歯科治療には、以下に挙げるようなリスクを伴います。
後戻り
矯正歯科治療によって移動した歯は、必ず元の位置に戻ろうとします。これは歯と歯茎をつないでいる歯周靭帯や顎の骨が移動後の状態に適応していないからです。
そのため、歯の移動が完了してから何もせず放置すると、せっかく整えた歯並びが再び乱れてきます。そうした後戻りという現象を防止するためには「保定処置」が不可欠です。リテーナーと呼ばれる保定装置を装着して、歯並びを固定します。
虫歯・歯周病
複雑な形態の矯正装置を設置すると、清掃性が低下します。その結果、虫歯や歯周病のリスクが上昇するため、治療前以上に丁寧な口腔ケアが必要となります。
矯正装置を装着した状態でもきれいにケアできる方法を歯科衛生士さんから学びましょう。普段から、矯正装置に詰まりやすい食品を避けるなどの心がけも重要です。
食事や歯磨きの際に装置を外せるマウスピース型矯正なら、虫歯や歯周病のリスクも抑えることが可能です。
口臭
矯正装置の中に汚れがたまると、口臭も発生します。普段から適切なケアを施し、口臭の抑制に努めましょう。臭いが生じやすいもの、装置に挟まりやすいものを避けるのも対処法のひとつです。
口内炎
矯正装置による口内炎は、物理的刺激と細菌的な刺激の2種類によって生じます。物理的刺激によって繰り返し口内炎が生じる場合は、装置の状態に大きな問題があります。
口腔粘膜に刺激を与えないような状態に調整してもらいましょう。 細菌による刺激で口内炎が生じるケースでは、口腔ケアを徹底することが大切です。歯科医院でのプロフェッショナルケアも併せて受けることで、口腔内の衛生状態は良好に保ちやすくなります。
歯肉退縮
歯肉退縮(しにくたいしゅく)とは、歯茎が下がる現象です。一般的には、歯周病の進行に伴って現れる症状ですが、歯や歯周組織に強い力がかかる矯正歯科治療でも起こります。
軽度の歯肉退縮であれば許容範囲といえますが、中等度から重度の歯肉退縮は看過できません。矯正力が強すぎるか、装置の状態に問題があるものと考えられます。早期に対処してもらうことが必要です。
歯の表面の摩耗
矯正装置が当たることによって、歯の表面が摩耗する場合があります。これは健全な状態ではないため、矯正装置の調整が必要です。
顎関節症
矯正装置の状態が悪いと、顎に過剰な負担がかかって顎関節症を引き起こすことがあります。矯正装置を調整することで、症状の改善が期待できます。
歯槽膿漏
歯槽膿漏(しそうのうろう)とは、歯茎から膿が出てくる歯周病です。矯正装置によって口腔内が不潔になり、歯周病が誘発されることで生じます。そうなるとまずは歯周病の治療を優先することになります。歯周病が治ったら、再び歯茎に細菌感染が生じないよう、徹底した口腔ケアを実践しましょう。
歯髄炎
矯正歯科治療に伴う歯髄炎(しずいえん)は、虫歯が原因のものと、矯正力に由来するものとがあります。虫歯が原因のケースでは、徹底した口腔ケアによって衛生環境を整えることが大切です。
矯正力に由来する歯髄炎は、歯にかかっている力が強すぎるため、装置の調整によって緩和する必要があります。そのまま放置すると、歯の神経が死んでしまうこともあることから、十分な注意が必要です。
▶歯髄炎の原因と治療方法は「歯の神経を抜くことも? 歯髄炎の原因と治療法」の記事をご覧ください。
矯正歯科治療をすることのメリット
ここまで、矯正歯科治療のデメリットやリスクを解説してきましたが、当然、メリットもたくさんあります。矯正治療を受けると、歯並びが良くなるだけでなく、顔のゆがみが改善されることもあり、口元や顔だちのコンプレックス解消につながります。その他にも以下に挙げるようなメリットがあります。
美しい見た目を手に入れる
人の印象の良し悪しは、歯並びによって大きく左右されます。矯正歯科治療によって歯並びが整えば、それだけで見た目の印象も大きく向上します。さらには、顔のゆがみなども改善されることから、顔だちにも大きな変化が現れます。美しい見た目を手に入れたいのであれば、歯並びからきれいにするのが一番です。
コンプレックスの解消
歯並びや顔のゆがみがコンプレックスとなっている場合は、矯正歯科治療がおすすめです。いずれも自力では解決できない問題なので、歯科医療の力を借りましょう。矯正歯科治療であれば、歯並びの異常、顔のゆがみを根本から改善することが可能です。
咀嚼機能の改善
矯正歯科治療では“必ず咬み合わせの正常化”も行われます。どんなに美しい歯並びでも、上下の歯列が正常に咬み合わなければ、歯としての機能を果たさないからです。
そのため、矯正歯科治療が完了した時点で、咬み合わせも正常化されているものとお考えください。その結果、食べ物を咬み切る、すり潰す機能も改善され、消化器官への負担軽減が軽減されます。唾液の分泌量も向上します。
歯の寿命を延ばす
歯並びが整うと清掃性が向上し、虫歯や歯周病のリスクが低下します。口腔内の健康が長期的に保たれることで歯の寿命も延伸します。
まとめ
このように、矯正歯科治療にはさまざまなメリット・デメリット、治療に伴うリスクなどがありますので、事前に把握しておくことが大切です。矯正を検討中の人は、まず歯並びがどのような状態なのかを歯医者さんに診てもらいましょう。そうすることで具体的なメリットやデメリット、リスクなども見えてきます。
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■他の矯正歯科のコラム:https://teech.jp/column/kyoseishika
■矯正歯科の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/kyoseishika-interview
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(このコラムは歯科医師によって執筆・監修されています)
【コラム執筆歯科医師の紹介】
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長崎大学歯学部歯学科卒業