見た目だけではない!? 矯正歯科治療の重要性とは
日本人には、歯並びの乱れに悩まされている人が少なくありません。歯並びの種類よっては、顔だちにも大きな影響が及ぶこともあり、口元のコンプレックスになりやすいのです。
さらに、お口の機能や健康面にまで悪い影響が波及することもあるため、矯正によって乱れた歯並びを整えることは極めて重要です。ここではそんな矯正治療の重要性についてわかりやすく解説します。
矯正歯科治療の目的
多くの人は、審美(見た目)目的で矯正歯科を受診します。出っ歯や受け口(下の歯が上の歯より前で咬み合っている状態)など、顔の見た目に悪い影響を与える歯並びの乱れをきれいに整えたい、笑顔に自信を持ちたい、といった理由から矯正治療を検討する方が大半といえます。
もちろん、見た目を改善することは重要ですが、それと同じくらい、お口の機能や健康を回復させることも重要です。
見た目の改善
見た目を改善することは、矯正歯科治療における主な目的です。乱れた歯並びをきれいに整え、口元の審美性を向上させます。患者さんの多くは、この目的が達成されることを第一に考えていることでしょう。
咬み合せの改善
お口の機能を正常化させる上で、最も重要なポイントのひとつが“咬み合わせ”です。咬み合わせとは、上下の歯列が咬み合う状態を意味し、ここに異常があると、さまざまなトラブルが生じます。
なぜなら、咬んだ時の力がいずれかの歯に集中したり、顎の骨や顎関節に過剰な負担をかけてしまったりするからです。頭痛や肩こりとった全身症状を引き起こすこともあります。そのため、矯正歯科治療ではかみ合わせを改善することを最も重要な目的のひとつに据えています。
虫歯・歯周病予防
矯正歯科治療の目的として、意外に見落とされがちなのが“清掃性の向上”という観点です。矯正治療を検討中の人なら実感していることかと思いますが、歯並びに乱れがあると歯磨きしにくいですよね。
とくに乱ぐい歯のような入り組んだ歯並びは、汚れがたまりやすく、虫歯や歯周病のリスクも上昇します。矯正歯科治療によって歯並びが整えば、清掃性が向上し、虫歯・歯周病予防にもつながります。
矯正歯科治療を検討すべき歯並びの種類
歯並びの乱れには、いろいろな種類があります。歯並びの状態によって、必要となる治療も異なってくることから、まずは精密な診断を受ける必要があります。以下に挙げるような歯並びは、矯正歯科治療を検討すべきといえます。
出っ歯(上顎前突)
上の前歯、もしくは上顎骨が前方へと突出している歯並びです。専門的には上顎前突(じょうがくぜんとつ)といいます。独特な顔だちを呈するだけでなく、前歯で咬みにくかったり、口呼吸が誘発されたりするなどのデメリットがあります。比較的日本人に多い歯並びの乱れです。
受け口(下顎前突)
下の前歯、もしくは下顎骨が前方へと突出している歯並びです。専門的には下顎前突(かがくぜんとつ)といいます。“顎がしゃくれている”と表現されることもあり、口元のコンプレックスになりやすいです。前歯で咬みにくい、発音が悪くなりやすい、などのデメリットがあります。
すれ違い(交叉咬合)
正常な歯並びは、上の歯列が外側、下の歯列が内側に位置しています。すれ違い咬合、あるいは交叉咬合(こうさこうごう)と呼ばれる歯ならびでは、下の歯列が一部外側に位置しています。
その結果、顔だちが左右非対称になったり、効率良く咬めず歯や顎に過剰な負担がかかったりするため要注意です。自分では気付きにくいので、歯医者さんで診察を受ける必要があります。
乱ぐい歯、八重歯(叢生:でこぼこ)
専門的には叢生(そうせい)と呼ばれる歯並びで、乱ぐい歯は歯列全体がでこぼこ、八重歯は上顎の犬歯が外に飛び出している状態を指します。清掃性が悪く、虫歯や歯周病のリスクが高いです。審美的にも大きな問題を抱えることになります。
すきっ歯(空隙歯列)
歯列の中に不自然な隙間が生じている歯並びです。専門的には空隙歯列(くうげきしれつ)と呼ばれます。上の前歯に隙間が生じている歯並びは、正中離開(せいちゅうりかい)という特別な名前が付けられています。空気が歯列の隙間から漏れ出てしまうので、発音障害が現れやすいです。
口が閉まらない(開咬)
奥歯で自然に咬んだ時に、上下の歯列間に隙間が生じる歯並びです。専門的には開咬(かいこう)と呼ばれます。口が閉まらないため、口呼吸となり、口腔乾燥を引き起こしやすいです。前歯で咬むことができないので、そしゃく能率も低下します。
▶悪い歯並びの種類と、歯並びごとの原因・弊害は「歯並びが悪い原因と生活への影響とは!?」の記事をご覧ください。
歯が動く仕組み
矯正歯科治療では、マルチブラケットやマウスピース型矯正装置などを用いて、歯を移動させます。歯は歯槽骨(しそうこつ)というとても硬い組織に埋まっており、短期間で移動させるのは不可能です。
適切な矯正力を作用さることで、歯槽骨の吸収と再生がバランス良く進み、歯を少しずつ移動させることが可能となります。矯正を短期間で終わらせるために強い力をかけると、歯槽骨の吸収ばかりが進んでしまい、治療も失敗に終わります。
歯を正しく動かすには、歯槽骨の吸収と再生がバランス良く起こらなければならないのです。矯正は専門性が高く、治療期間が数年に及ぶのはそのためです。
矯正歯科治療の流れ
矯正歯科治療は、以下の流れで進行します。
カウンセリング・初診
まずはカウンセリングで、歯並びの悩みを相談しましょう。矯正歯科治療についても詳しく知る良い機会です。初診では、お口の中の状態なども大まかに診てもらうことができます。
精密検査
矯正歯科治療を希望する人は、精密検査を受けます。口腔内診査や一般的なレントゲン撮影に加え、セファログラムといった矯正のための画像検査も実施されます。
診断・治療計画の説明
検査結果をもとに診断が下されます。この時点で、どのような矯正法が最適であるかがわかります。立案された治療計画の説明を受け、同意するか否かを決めます。
虫歯・歯周病などの治療
お口の中に虫歯や歯周病といった異常が認められる場合は、それらの治療が優先されます。虫歯や歯周病を放置すると、矯正治療が予定通りに進行しなくなるためです。
プロフェッショナルケア・歯磨き指導
矯正歯科治療が始まると、口腔内の衛生状態を保ちにくくなります。これは矯正装置によって清掃性が低下するためです。そこで必須となるのが正しい口腔ケアの習慣化です。
口腔ケアのプロフェッショナルである歯科衛生士から、適切なブラッシング法を教わりましょう。歯垢や歯石をきれいに取り除くプロフェッショナルケアも併せて受けることが大切です。
矯正治療
前処置等が終わり、準備が整ったらいよいよ矯正治療のスタートです。マルチブラケットやマウスピースを装着して、歯を移動していきます。一般的には、2~3年の治療期間を要します。
保定
歯を移動する動的治療(どうてきちりょう)が完了したら、後戻りを防止するための保定期間に入ります。リテーナーと呼ばれる保定装置を装着する処置で、一般的には動的治療と同程度の期間が必要となります。
▶矯正歯科治療の流れは「矯正歯科治療はどんな流れで、どれくらいの期間かかる?」の記事をご覧ください。
矯正器具の種類
矯正器具にはいくつかの種類があります。
ワイヤー矯正
最もポピュラーな矯正装置です。金属製のワイヤーとブラケットを歯列に設置する固定式の矯正装置です。適応範囲が広く、ほとんどの歯並びが対象となります。
ホワイトワイヤーやセラミック製のブラケット、歯列の内側に設置するリンガルブラケット(舌側矯正)であれば目立ちにくく、口元の審美性の低下を抑えることができます。
マウスピース(インビザライン)
透明な樹脂製のマウスピースを装着することで、歯並びの乱れを改善する方法です。インビザラインは、世界で最も普及しているマウスピース矯正のシステムです。
目立ちにくい、異物感や不快感が少ない、食事や歯磨きの際に取り外せるといったメリットがたくさんある矯正装置ですが、ワイヤー矯正ほど適応範囲は広くありません。
その他
小児矯正では、上顎の成長を抑制するヘッドギア、下顎の成長を抑制するチンキャップ、顎骨の幅を拡大する拡大床などが用いられます。いずれも成長期だからこそ効果が見込める矯正装置です。
大人と子どもの矯正歯科治療の違い
矯正治療は、大人が受ける「成人矯正」と、子どもが受ける「小児矯正」の2つに大きく分けることができます。
大人の矯正
大人の矯正は、細かい歯並びの乱れを整える治療です。ワイヤー矯正やマウスピース矯正が該当します。いわゆる「歯列矯正」が大人の矯正治療に該当します。
子どもの矯正
子どもの矯正は、顎の発育をコントロールするのが主な目的です。顎の発育を抑えたり、促したりすることで、上下の顎骨の位置や大きさを調節します。歯や顎の骨が発育途上にあるため、歯列矯正のような歯並びの細かい調整はほとんど行いません。
矯正歯科治療のリスク・デメリット
矯正治療には、見た目が美しくなる、咬み合わせが正常化されて効率良く咬めるようになる、などのメリットがありますが、以下に挙げるようなリスクやデメリットも伴います。
これらは、すべての患者さんに起こり得るものではありませんが、少なくともそうしたリスクがあることは知っておきましょう。
▶矯正歯科治療の詳しいメリット・デメリットは「高額だからこそ把握しておくべき矯正歯科治療のメリット・デメリット」の記事をご覧ください。
矯正歯科治療は痛い?
矯正治療に伴うリスクやデメリットで、痛みに関して不安に感じている人は少なくありません。矯正は数年に及ぶ治療なので、我慢できないほどの痛みが生じたらどうしよう、と懸念する気持ちもよくわかります。
そんな矯正治療では、以下に挙げるようなケースで痛みが生じることがあります。
歯が動く時の痛み
原因
矯正治療は、顎の骨に埋まった歯を強引に移動させる処置であることから、少なからず痛みや不快感を伴います。痛みの質や度合いは個人差が大きく、一概に語ることは難しいですが、我慢できないほどのものではありません。
治療に伴う痛みは、矯正装置を装着あるいは調整した直後で最も強く、徐々に弱まっていきます。矯正装置によっても痛みの度合いが変わってきます。
緩和策
歯を移動させる時の痛みは、矯正力を抑えることで緩和できます。マウスピース矯正は、ワイヤー矯正よりも歯に与える圧力が低く、施術に伴う痛みも少ないのはそのためです。
ワイヤー矯正でも、ブラケットの位置や矯正用ワイヤーの屈曲度合いなどを調節することで、施術に伴う痛みを緩和できます。
口内炎ができた時の痛み
原因
矯正装置が口腔粘膜に当たり、口内炎ができることがあります。細菌感染を伴うと、物理的な痛みだけでなく、炎症反応による痛みも加わります。
緩和策
口内炎が繰り返し生じるようであれば、矯正装置の位置を改善しなければなりません。口腔衛生の不良による口内炎では、矯正装置および口腔内のケア方法を見直すことで、そのリスクを低減することが可能です。
咬む時の痛み
原因
矯正装置の設置部位が悪いと、咬んだ時に痛みが症生じることがあります。矯正装置を装着あるいは調整した直後も、しばらくは咬んだ時に痛みや不快感が生じることがありますが、時間と共に軽くなっていきます。歯に対して強い力が加わっているので、ある程度は仕方のない症状といえます。
緩和策
矯正装置による物理的な刺激で、咬んだ時の痛みが生じている場合は、早急に調整する必要があります。我慢をせずにすぐ歯科を受診しましょう。そのまま放置すると、矯正装置が破損するだけでなく、口腔組織に深刻なダメージが及びます。
▶矯正歯科治療の痛みの原因と緩和策の詳細は「歯の矯正(矯正歯科治療)~4種類の痛みと痛む期間・緩和策~」の記事をご覧ください。
矯正歯科治療にかかる期間
矯正歯科治療は、比較的長い治療期間が必要となります。歯並びの状態や選択した矯正法によって、治療期間は大きく変わります。ここでは、大人の矯正歯科治療と子どもの矯正歯科治療の目安となる期間について解説します。
大人の矯正期間
大人の矯正は、一般的に2~3年の治療期間が必要です。歯列矯正は、1ヶ月に1mm程度しか歯を動かすことができないので、それくらいまとまった期間が必要となるのです。
歯の移動が完了したら、後戻りを防止するための保定期間に入ります。保定処置は、歯を動かすのにかかった期間と同程度、継続しなければなりません。
つまりは、2~3年ですね。そのため、大人の矯正は、合計で4~6年の治療期間を必要とするといえます。
子どもの矯正期間
子どもの矯正は、第一期治療と第二期治療の2つに分けられます。第一期治療は1~3年、第二期治療は1~2年程度の期間が必要です。
ただし、小児矯正は成人矯正以上に個人差が大きく、具体的な治療期間はカウンセリング等で確認した方が良いといえます。
矯正歯科治療にかかる費用
矯正歯科治療は、基本的に自由診療で行われるため、歯科医院によって費用が異なります。また、症状や装置の種類によっても費用は大きく変動します。ここではそんな矯正治療費の相場をご紹介します。
・カウンセリング料 0~10,000円
・検査、診断料 30,000~60,000円
・矯正治療費用 700,000~1,500,000円
・調整、処置費用(1回)5,000円程度
・保定装置代金 0円(矯正治療費に含まれる)
・保定観察料(1回)5,000円程度
▶矯正歯科治療の費用相場は「矯正歯科治療が高額な理由と費用の内訳を解説」の記事をご覧ください。
矯正歯科治療をするときの歯医者の探し方
矯正治療は、特殊な歯科治療であることから、歯医者さん探しも慎重に行わなければなりません。これから矯正の歯医者さん探しを始める人は、以下の3点に着目しましょう。
矯正専門医の資格の有無
矯正歯科にも専門医制度があります。具体的には、矯正歯科の「認定医」と「指導医」の資格が存在しており、これらを取得している時点で、一定水準以上の知識や技術が保証されます。
もちろん、矯正専門医の資格を持っていなくても優秀な歯医者さんはいますので、あくまで参考程度にお考えください。
診療実績
矯正歯科の診療実績が豊富であることに越したことはありません。たくさんの症例を経験している歯医者さんなら、診療技術も高い傾向にあります。
カウンセリングの質
良い歯医者さんを見つける上で、カウンセリングの質は極めて重要なポイントとなります。こちらの疑問や不安をしっかり解消してくれる先生がおすすめです。カウンセリングで誠実な対応をしてくれない歯医者さんには、数年に及ぶ矯正治療を任せるのは難しいといえます。
メリットだけでなく、デメリットまできちんと説明し、治療費の内訳も細かく明示してくれる歯医者さんが望ましいです。矯正治療に必要な設備がそろっているかも確認しておきましょう。
▶矯正歯科治療が得意な歯医者さんの探し方は「矯正歯科治療に失敗しないための歯医者の探し方」の記事をご覧ください。
まとめ
このように、矯正歯科治療は長年のコンプレックスだった歯並びを改善でき、機能面や健康面にも良い影響を与えてくれる素晴らしいものですが、一般の歯科治療とは異なる部分が多々あります。
少しでも不安や疑問がある人は、まずカウンセリングを受けてみることをおすすめします。矯正のカウンセリングは、無料で行っているところも多いです。
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■他の矯正歯科のコラム:https://teech.jp/column/kyoseishika
■矯正歯科の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/kyoseishika-interview
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(このコラムは歯科医師によって執筆・監修されています)
【コラム執筆歯科医師の紹介】
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長崎大学歯学部歯学科卒業