歯の神経を抜くことも? 歯髄炎の原因と治療法
大きな虫歯でズキズキとした強い痛みをともなう場合、多くのケースで神経を抜く治療がおこなわれます。これは歯の内側に「歯髄炎」という炎症を引き起こしているためです。
では歯髄炎になるとなぜ神経を抜かなければならないのか、そもそも歯髄炎とはどのような病気なのかを、以下に詳しくご紹介していきましょう。
歯髄炎とは
歯髄炎とは、歯の中心部にある「歯髄(しずい)」という部位に炎症が起こっている状態です。歯髄には歯の神経や血管が通っており、外部からの刺激や細菌によって炎症が生じると多くのケースで激しい痛みをともないます。
その歯髄炎には病状や原因などによるいくつかの分類があります。
たとえば炎症が急激に進むものを「急性」、炎症が緩やかに進むものは「慢性」の歯髄炎といいます。
また歯髄炎の原因が細菌の感染から生じる場合は「化膿性」、細菌の感染以外で生じる場合は「単純性」の歯髄炎と診断されます。
さらに歯髄炎には、神経(歯髄)を取らなくても回復が見込める「可逆性」の歯髄炎と、神経を取る以外に回復が見込めない「不可逆性」の歯髄炎があります。
可逆性の歯髄炎は初期の段階で適切な処置をおこなうと神経が残せる一方で、処置しないまま放置すると不可逆性の歯髄炎に発展する可能性があります。
その不可逆性の歯髄炎をさらに放置すると神経はやがて死んでしまい、細菌に感染している場合はその細菌が根の先のほうに広がり「根尖性歯周炎」を引き起こしていきます。
したがっていずれの歯髄炎も早い段階で適切な治療をおこなうことが肝心です。
歯髄炎の症状
歯髄炎の症状は急性と慢性で違いがあります。急性の歯髄炎では痛みなどの症状がはっきりしているのに対し、慢性の歯髄炎では自覚症状に乏しいのが特徴です。以下にそれぞれの症状を詳しく解説していきましょう。
急性の場合
急性の歯髄炎ではこれまでジワジワと感じていた程度の痛みが、急激に強さを増していきます。食事の際は冷たい物と熱い物の両方が歯にしみるほか、甘みや酸味などの味の刺激でもしみるようになります。
また歯がしみるのも一瞬ではなく、歯がしみてからその痛みが30秒~1分ほど続くことがあります。
ほかにも食べ物や歯ブラシが当たる物理的な刺激にも痛みを感じやすく、病状が進むと何もしなくてもズキズキした激しい痛みを感じはじめます。これまでにあった歯の痛みが上記のように変化したら、急性の歯髄炎を発症した可能性が高いでしょう。
慢性の場合
慢性の歯髄炎は自覚症状がほとんどなく、あっても歯に違和感を覚えたり、噛むとわずかに痛みを感じたりする程度です。食事の時に冷たい物や熱い物がしみることもありません。
ただ虫歯で歯に大きな穴が空いている場合、その穴に食べカスが詰まると強い痛みを感じることがあります。
歯髄炎になる原因
歯髄炎は「歯髄の中に細菌が感染した場合」と、「外部から何らかの刺激が歯髄に加わった場合」に発症しやすくなります。ではこの2つが生じる具体的な原因について、さらに詳しくみていきましょう。
細菌の感染で起こる歯髄炎
■虫歯
歯髄炎を発症する原因として一番多いのは虫歯です。虫歯によって歯に大きな穴が空くと、その穴から歯髄の中に細菌が侵入し、歯髄炎を発症します。虫歯による歯髄炎は不可逆性であることが多く、神経を抜く治療が必要となります。
■歯周病
進行した歯周病では、歯と歯ぐきの間に生じる「歯周ポケット」に生息する細菌が歯根の先から歯の内部に侵入し、歯髄炎を起こすことがあります。このような歯の根元から細菌が感染した歯髄炎を「上行性歯髄炎」といい、こちらも神経を抜く治療が必要となります。
■隣り合う歯の根尖病巣
歯根の先に細菌が感染して“膿の袋”ができる根尖病巣では、病巣が大きくなると隣接する歯に細菌が感染し、歯髄炎を起こす場合があります。
■歯が欠ける・折れる(外傷)
ケガなどで歯が大きく欠けたり折れたりした際に、歯髄の一部が露出してしまうと虫歯と同様に露出した部位から歯髄に細菌が感染し、歯髄炎を発症することがあります。
外部からの刺激で起こる歯髄炎
■歯への衝撃
衝突や転倒などで歯を強くぶつけた場合、その強い衝撃が歯髄まで伝わると歯髄炎を起こしやすくなります。
■歯ぎしり・食いしばり
歯ぎしりや食いしばりなどで歯に通常よりも強い力が加わり続けると、歯髄炎を発症することがあります。
■知覚過敏
知覚過敏になると、虫歯ではないのに冷たいものがしみたり、歯ブラシを当てたときに“ピリッ”とした痛みを感じたりしやすくなります。これらの刺激が繰り返されると、歯髄内の神経が常に興奮した状態になり、それが元で歯髄炎を発症してしまうことがあります。
■歯を削る際の刺激
治療で歯を削ると、ドリルの振動や熱が歯の内側に伝わります。それらの刺激が原因で歯髄炎を引き起こすことがあります。
■細菌が産出する酸や毒素
歯髄の近くまで進行した深い虫歯(象牙質虫歯)では、細菌が作る酸や毒素が刺激となり、歯髄炎を発症することがあります。
歯髄炎の治療法
先述にあるように、歯髄炎には神経を残せる可逆性の歯髄炎と、神経を残せない不可逆性の歯髄炎の大きく2つにわかれます。それぞれのケースごとに、具体的な治療の方法をご紹介しましょう。
神経が残せる場合/可逆性の歯髄炎
細菌の感染がみられない(単純性)歯髄炎、または歯髄の一部にだけ炎症が起こっている歯髄炎では、次に挙げる神経を残すための温存療法をおこないます。いずれの治療も基本的には「※自発痛(何もしていない状態で感じる痛み)がないこと」が治療をおこなう条件となります。
■覆髄(ふくずい)法
歯の内部(象牙質)に殺菌効果や炎症を鎮める効果のある薬剤を詰め、歯髄の炎症を抑えていきます。薬剤を詰めた後は効果がでるまで一定の期間をおきますが、その途中で症状が悪化した場合は神経を抜く治療をおこないます。
■生活歯髄切断法
歯髄の一部だけが炎症を起こしている場合に、その部分だけを取り除いて残りの神経を残す治療法です。こちらも途中で症状の悪化がみられた場合は、残した神経もすべて取り除く治療をおこないます。
神経が残せない場合/不可逆性の歯髄炎
激しい痛みや自発痛をともなう場合、他の組織にも影響が及ぶと判断される場合には、歯髄のすべてを除去する根管治療(抜髄治療)をおこないます。これが一般に“神経を抜く”といわれる治療です。
神経を抜く治療でははじめに麻酔をかけ、歯髄の入り口まで歯を削ります。その後、ファイル・リーマーと呼ばれる細い器具を使って神経や血管、さらに汚染された歯質などをきれいに取り除きます。最後に殺菌効果のある薬剤を根管に詰めたら、初回の治療が終了です。
次回の治療(初回から約1週間後)で症状が落ち着き、根管内が清潔になったのを確認できたら根管充填をおこないます。根管充填では「ガッタパーチャ」「MTAセメント」などの詰め物を根管内に緊密に詰め、根管に再び細菌が感染するのを防いでいきます。根管充填が終わったら、歯を削った部分に詰め物や被せ物を入れていきます。
▶歯の神経を抜く"根管治療"の方法は「根管治療(歯の神経の治療)の方法と流れ」の記事をご確認ください。
歯髄炎にならないための予防策
歯髄炎になる原因にはいくつかありますが、なかでも多いのが虫歯から歯髄炎に発展するケースです。したがって歯髄炎にならないためには、まず基本的な虫歯予防を徹底することが肝心です。
歯磨き
毎日の歯磨きでは歯ブラシを使った歯面清掃にくわえ、デンタルフロスや歯間ブラシによる歯間清掃もしっかりおこないましょう。
虫歯菌は「プラーク」といわれる細菌の集合体の中に生息していますが、歯ブラシで除去できるのはお口全体に付着したプラークの6割程度といわれています。
なおデンタルフロス・歯間ブラシなどの歯間クリーナーは1日1回、就寝前の使用がおすすめです。
歯科医院でのプロフェッショナルケア
狭いすき間や段差の多いお口の中は、セルフケアのみでプラークをすべて取り除くのは困難です。そのため3~4ヶ月に1度は歯科医院を受診し、磨き残したプラークを徹底的に除去してもらうことをおすすめします。
また歯科医院での定期的なチェックは虫歯や歯周病を早期に発見し、早い段階で治療をおこなうことで歯髄炎の予防につながります。
食生活の改善
虫歯の予防ではお口のケアだけなく、普段の食生活を見直すことも大切です。とくに食事や間食の回数が多い人、また軟らかい食品を好む人は口内に汚れがたまりやすく、虫歯リスクも高くなります。
糖分の摂りすぎに注意するのはもちろんのこと、「食事・間食の時間を決める」「歯ごたえのある食品を取り入れる」など、食生活の改善に努めましょう。
▶虫歯、歯周病にならないための予防歯科については「予防歯科のメリットとケア方法」の記事をご確認ください。
まとめ
歯髄炎の中には神経を抜かずに改善が見込めるものもありますが、多くのケースでは激しい痛みをともない、神経を取る治療が必要となります。
治療により痛みなどの症状は治まりますが、それと引き換えに神経を失うことはその歯の今後にとってマイナス面も多いことも理解しておきましょう。
歯髄炎にならないためには、まず虫歯を予防すること、そして歯に少しでも異常を感じたら早めに歯科医院を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
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■他の根管治療のコラム:https://teech.jp/column/konkanchiryo
■根管治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/konkanchiryo-interview
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【コラム執筆・監修者の紹介】
影向 美樹
歯科医師免許取得後、横浜・京都の歯科医院にて10年ほど歯科医として勤務。現在は歯科分野を中心とした医療系Webライターとして活動中。