歯並びと親知らずの関係~抜歯する必要はある?~
親知らずはトラブルの原因となりやすい歯であり、いつかは抜かなければならないと思っている人も少なくないでしょう。特に歯並びを整える矯正治療では、親知らずの抜歯が必須となりそうなものですよね。
ここではそんな親知らずと歯並びの関係を中心に、どんな時に抜歯が適応されるのか、わかりやすく解説します。
親知らずとは
親知らずとは、最後に生えてくる永久歯で、専門的には「智歯(ちし)」あるいは「第三大臼歯(だいさんだいきゅうし)」と呼ばれています。
一般的には20歳前後に萌出することから、親が知らなないうちに生えてくる“親知らず”という俗称が付けられるようになりました。
親知らずが生えてくる時期には、もうすでに28本の永久歯が生えそろっているため、多くのケースでスペース不足となります。その結果、親知らずは半分埋まっていたり、斜めに生えてきたりするのです。
人によっては、歯茎の中に完全に埋まっていることもあります。正常に咬み合うことも少なく、永久歯列に必須であるとは言い難いです。
親知らずと歯並びの関係
私たちの歯は、顎骨という限られたスペースの上に28本、親知らずを含めると32本を並べなければなりません。顎の骨が小さいと、自ずと歯列からはみ出る歯が出てくるのはそのためです。
そこで4本の親知らずが歯並びに悪影響を及ぼすかどうかは、ケースによって変わります。
親知らずの生え方が悪く、手前の歯を圧迫するようなことがあれば、矯正後の後戻りを促進することはもちろん、そもそも矯正自体を困難とさせることも十分あり得ます。
ですから、矯正治療に先立って親知らずを抜歯することは、決して珍しいことではないのです。
矯正歯科治療に親知らずの抜歯は必要?
矯正歯科治療では、親知らずの抜歯が必須となるわけではありません。ここでは、親知らずの抜歯が必要ないケースと必要なケースについてそれぞれ解説します。
親知らずの抜歯が必要ないケース
■きちんと咬み合っている
親知らずが真っすぐ正常に生えていて、対合する歯ときちんと咬み合っている場合は、抜歯せずに保存する方が望ましいです。親知らずもかけがえのない天然歯のひとつとして、咀嚼機能を担ってくれることでしょう。
■完全に埋まっている
親知らずが歯茎の中に完全に埋まっていて、歯並びや咬み合わせへの悪影響が懸念されない場合は、抜歯をせずに保存します。完全埋伏の親知らずは、矯正治療の進行を妨げることも少ないです。
■矯正で正しい位置に動かすことができる
現状、生え方や咬み合わせに異常を抱えている親知らずでも、矯正治療によって正しい位置へと動かすことができるのなら、抜歯は行いません。親知らずも含めた矯正計画を立案します。
親知らずの抜歯が必要なケース
■親知らず・その手前の歯が虫歯になっている
親知らずが虫歯になっている場合は、時間をかけて治療するのではなく、抜歯適応されることが多いです。なぜなら、親知らずは清掃性が低く、虫歯治療を施しても再発するリスクが高いからです。
また、親知らずが原因で、手前の歯が虫歯になっている場合も親知らずの抜歯が適応されやすいです。親知らずを抜くことで、手前の歯を治療しやすくなりますし、何より感染のリスクを抑えることが可能となります。
■横向きに生え手前の歯に悪影響を及ぼしている
横向きに生えている親知らずは、手前の歯を圧迫して、歯根を吸収させるなどの悪影響を及ぼします。そのような親知らずにも抜歯が適応されます。
■中途半端に生えている
半分埋まっているような状態の親知らずは、清掃性が著しく低下します。とくに親知らずの歯周病である「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」のリスクが高まることから、抜歯をした方が良いと判断されるケースも少なくありません。
■完全に埋まっているが嚢胞がある
親知らずが歯茎の中に完全に埋まってはいるものの、その周囲に嚢胞(病的な袋状のもの)が形成されている場合は、抜歯が適応されます。そのまま放置すると、顎骨炎などに移行するため、早急な処置が求められます。
親知らずを使った自家歯牙移植
とくに問題を起こしていない親知らずは、できる限り保存がした方が良いといえます。これは、何らかの理由で歯を失った際に、移植歯として活用できるからです。
例えば、外傷などによって奥歯を1本失ってしまったら、本来であれば、ブリッジや入れ歯、インプラントなどで補わなければなりませんが、正常な親知らずが残っていれば、自家歯牙移植をすることが可能となります。
ですから、親知らずがあるからといってとにかく抜歯をするのではなく、将来、移植歯として活用できる道も模索することが大切です。
まとめ
このように、歯並びと親知らずには密接な関連がありますが、矯正治療の際に必ず抜かなければならないわけではありません。矯正治療を検討中で、親知らずがまだ残っているという人は、抜歯の要否も踏まえて、矯正医としっかり話し合う必要があります。
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(このコラムは歯科医師によって執筆・監修されています)
【コラム執筆歯科医師の紹介】
運営サイト:「みんなの歯学」https://minna-shigaku.com
長崎大学歯学部歯学科卒業