再発率が高い!?根管治療(歯の神経の治療)が得意な歯医者の見つけ方
根管治療とは、感染した歯髄を除去し、根管内に薬剤を充填する治療方法です。
適切な薬剤で根管内を消毒できているか、衛生的な治療環境で処置を行っているかなど、歯科医師の知識や技術力により、治療後の経過に違いが出てきます。
やり直しの根管治療である「感染根管治療」は治療の成功率が下がることが分かっていますので、初回の根管治療をしっかりと行い、再発をさせないことはとても大事なポイントです。
では、どのような点に気をつければ根管治療の再発率を抑えることができるのでしょうか?
また、患者様はどのような方法で根管治療を得意とする歯科医師を探すことができるでしょうか?
根管治療の再発率が高い理由
では、根管治療の再発率が高い具体的な理由とは、どのようなものがあるでしょうか?歯科医師の手先の器用さや、経験年数によるものでしょうか?
根管の形には個人差がある
歯科医師は前歯や奥歯など歯の種類別の特徴を理解していますが、それぞれ歯にも何種類も根管のパターンがあります。
神経の管である根管の形状は色々なパターンがあり、例えば、上顎小臼歯(前歯から数えて4、5番目)においては、根管の形態を解剖学的に8つの形態に分類することができます。
1根管であるものや、2根管が途中で癒合するもの、反対に2根管が途中から合流して1根管になっているものなど、根管の形態は多様に存在します。
根管を見逃すと感染源を取り切ることができませんので根管治療の治療成績は下がる可能性があります。
この様な多様な根管形態を治療する前から把握することは治療の戦略を練る上でとても重要になります。そのため近年では一般的なレントゲン撮影の他に歯の構造を3次元的に確認できるCTを撮影する機会が増えました。特に複雑な根管形態をしている大臼歯(奥歯)の場合は細かな条件はありますが、主治医が必要と判断すれば、健康保険の治療の中でもCT撮影を行うことができるようになっています。
歯科医師の技術力が再発防止のカギ
根管治療を終えた処置歯が、再感染し再根管治療が必要となる原因には、根管内の消毒の不備、不均一な充填、器具操作のミスによる根管形態の不正(不必要な段差ができることや、穿孔すること)などが挙げられます。
歯科医師の繊細な技術力を必要とする根管治療では、無菌性の確保や、良好な視野など診療環境が重要です。
根管治療の成功率を上げる精密歯科治療
事前のCT撮影などで根管の形態を把握しても、実際の根管は非常に微細なため、目視や手指の感覚に頼るだけでは難しい場合もあります。
そのような場合は、裸眼の20倍程度まで倍率を拡大することができる歯科用顕微鏡のマイクロスコープを使用することで、患部を拡大視しながら処置が行えます。また、マイクロスコープはキセノンやLEDなどの明るい光源を搭載しておりますので、暗い根管内を高倍率でかつ明るい視野で治療することができます。
ただし、CTやマイクロスコープなどの最新の機材を使用しても、根管治療の原則である無菌的治療環境に配慮した治療を行わない限り全く意味がありません。
その意味ではラバーダム防湿はCTやマイクロスコープに比べとても地味ですが、治療の大原則といえるでしょう。
▶ラバーダムの重要性については「歯の神経の治療(根管治療)でゴムのシート(ラバーダム)つけて治療しているのはなぜ?」のコラム記事や「きちんとした根管治療を行ってくれる歯科医院のポイント」の歯科医師インタビュー記事をご確認ください。
根管治療が得意な歯医者を見つけるのが難しい理由
根管治療の成功には、精密治療を行える環境と、歯科医師の技術力が必要です。口コミだけでは、根管治療が得意な歯医者であるかは、正確な判断ができません。歯科医師にも専門性があり、根管治療が得意な歯科医師もいれば、苦手とする歯科医師もいるからです。
根管治療はよくある治療
少し古いデータになりますが、2009年には全国で1,350万件以上(※1)の根管治療が行われていました。このことからもわかるように、歯科医師にとって根管治療は珍しい治療ではありません。ほぼ全ての歯科医院が根管治療は定番の診療として行っているのです。
研修医も専門医も同じ費用
日本の保険診療制度では、初めて根管治療を行う研修医も、根管治療を長年行い専門医の取得をしている歯科医師が行う場合も、費用は同じです。治療の手順を知っていても、上手に根管治療を完了できるかということは、別問題です。
根管治療が得意な歯医者を見つけるポイント
根管治療を得意とする歯科医師を探す場合のポイントをご紹介します。
学会から認定を受けている
まず、参考にしてほしいのが学会による認定制度です。歯科医師は、学会に所属し、自己研鑽を積んでいることが多いです。特に根管治療を得意とする歯科医師は、歯を残す、保存するということを目的に、最新の技術を学び習得するため日本歯科保存学会に所属しています。
日本歯科保存学会による専門医試験に合格している場合、医院の公式ホームページなどに記載していることが多いので、1つの基準にしてみてください。
根管治療、歯内療法の医局に在籍している、関連した論文を書いている
根管治療を含む歯の神経を扱う学問のことを歯内療法学と呼びます。つまり根管治療は歯内療法学の一つの分野と言えます。
歯科医師が歯内療法学の大学院を修了していたり、医局に在籍している、また学会発表や論文執筆などをしている場合、根管治療を得意とする歯科医師である可能性が高いと言えるでしょう。
医院のHPから歯科医師の経歴を参考にするのも良いと思います。
米国式の術式を取り入れている
歯科界において、日本よりも米国の根管治療の方が、成功率が高いと認識されています。米国式の根管治療というのは、米国歯内療法学会による「Guide to Clinical Endodontics」を準拠した治療方法です。
例えば米国式の根管治療では、無菌化した処置を行う目的で、ラバーダムという器具の装着を必須としています。日本の一般歯科医のラバーダム装着率5.4%(※1)という現状と比較し、米国式の根管治療では、より感染に配慮した治療を受けることができ、再発率が低くなるといえます。
外科的歯内療法である「歯根端切除術」を行っている
通常の根管治療では治らない難治性の場合、外科的歯内療法が選択されます。
歯根端切除術は、歯根の先端を切除し、切除した部分から根管内に薬剤を充填する方法で、歯肉を切開し歯根の先にアプローチする必要がありますので外科的な治療方法になります。 難治性の原因となる消毒できない細菌群が特に歯根の先に集中していることから、歯根を切除することで細菌を除去します。
歯根端切除は専用の器具を必要としますし、何より高度な技術を必要とするため一般歯科のみを行っているクリニックの場合には、根管治療を専門とする歯科医院に紹介します。
自費診療を行っている
自費診療を行っているクリニックは、保険診療では使用することのない器材や薬剤を使用するため、より成功率が高いといえます。
簡単に、自費診療ならではの器材や薬剤についてご説明します。
■ラバーダム(ゴムのシート)
治療する歯を、唾液から隔離し、汚染を防止することができます。
■マイクロスコープ
暗い根管内をマイクロスコープにより明るく拡大した状態で確認できます。
■CT
3Dの画像解析を行うことで、2次元のレントゲン写真では見つけることのできない根管の側枝(細い枝分かれ状の根管)などを治療前に把握することが可能です。
■NiTiファイル
一般の歯科診療で使用するファイルという根管内をきれいにする器具に比べて、ニッケルチタンでできたファイルは、狭い根管を素材の弾性力を利用して、無理なく探索していくことに優れています。
■超音波洗浄
歯髄を除去する際に、根管壁から出た切削片が根管内に蓄積しています。超音波の振動で感染源となりうる切削片を除去することができます。
■MTAセメント
MTAセメントは、根管の封鎖性に優れ、再感染のリスクを下げることができます。
ただ、自費診療であれば必ず良い治療をお受けになれるとは限りませんし、保険診療内で行っているクリニックにおいても根管治療が上手な先生も多くいらっしゃいます。
根管治療で医院探しに悩まれた場合は、日本歯内療法学会の専門医であり自費診療をされているクリニック、PESCJのような根管治療に特化したスタディグループに所属している歯科医師などをポイントに医院選びをしてみてはいかがでしょうか。
根管治療が適応されるのはどんな時?
根管治療の適応は、歯の神経である「歯髄」に炎症が起き、かつ、その炎症が根管治療を行わないと鎮めることができないと判断した場合です。
歯髄が炎症を起こしている状態を「歯髄炎」と呼び、歯髄炎は細菌が歯髄の中に侵入することで発症します。
むし歯と神経の関係について
虫歯由来の細菌が神経の中に侵入すると歯髄炎が起きます。歯髄炎の進行度は痛みの度合いに比例します。
冷たいものや熱いもので軽くしみる程度であれば虫歯をしっかり取り切れば歯髄は健康な状態に戻る可能性がありますが、歯髄炎が重症化すると何もしなくても痛い「自発痛」の状態になります。
自発痛が出現している場合には根管治療が必ず必要になります
さらに進行すると歯の神経が死んでいる「歯髄壊死」
自発痛の状態も通り過ぎ、さらに歯髄炎が進行すると、神経が完全に死んでしまう「歯髄壊死」の状態になります。
ここまでくると一時的に痛みを感じなくなり、治ったかのように思うかもしれませんが、歯髄壊死を放置するといずれ根の先に膿をつくります。この状態を「根尖性歯周炎」と呼び、歯肉が腫れてきたり、たまった膿により内圧が高まると再び激痛になります。これは根の先の影がレントゲンで確認できる状態です。
治療前に知っておきたい根管治療の方法と流れ
先ほど、ご説明した抜髄や感染根管治療の具体的な手順についてご説明いたします。基本的に数回の来院が必要となることが多いです。
レントゲン撮影
歯根の向きや、根管の数、炎症の位置を確認します。
根管口の明示
麻酔を行い、根管にアプローチするため歯の切削を行います。
根管長測定
ファイルと呼ばれる器具を挿入し、根尖の先端まで貫通させ、長さを測定します。
根管拡大
感染した歯質や歯髄を除去し、漏斗状に拡大します。
貼薬
多くの場合、ここまでが初回の治療内容です。根管内に薬を塗って終了です。
症状確認
次回の来院時に、根管から感染源が除去されたことを確認。症状が残っている場合には、貼薬を繰り返します。
根管充填
根管内を洗浄し、最終的な薬剤を充填します。その後、レントゲン撮影を行い、根管内に十分に薬剤で満たされているかを確認します。
▶歯の神経を抜く"根管治療"の詳細は「根管治療(歯の神経の治療)の方法と流れ」をご確認ください。
まとめ
根管治療は、再治療が多いと言われています。根管治療の成功には、歯科医師の技量と、専門的な器具や薬剤が必要です。根管治療を得意とする歯科医師を見つけることが大切です。
参考資料※1 日本歯内療法学会雑誌「わが国における歯内療法の現状と課題」
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■他の根管治療のコラム:https://teech.jp/column/konkanchiryo
■根管治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/konkanchiryo-interview
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【コラム執筆歯科医師・監修歯科医師】
初台 はまだ歯科・矯正歯科 院長 濱田泰子先生
▼医院について
Teech掲載ページ:https://teech.jp/hospital/19711
医院ホームページ:https://www.hamada-dc.com/
〒151-0071 東京都渋谷区本町1-2-5 初台AIビル2F
▼経歴
2005年 日本歯科大学 歯学部 歯学科卒業
2010年 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 博士課程修了
2010年 焼津市立総合病院 歯科口腔外科
2014年 はまだ歯科医院 開院
2016年 PESCJ第7期生として、根管治療を専門に1年間履修(その後、認定医を取得)
2021年 病院名を初台 はまだ歯科・矯正歯科に変更
▼資格
PESCJ認定医
※PESCJについて:ペンシルバニア大学歯内療法学科(根管治療)の臨床コンセプトとテクニックを広く伝えることを主な活動として、2009年に設立したスタディークラブです。
▼共著
『世界基準の臨床歯内療法 第2版』
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【コラム執筆・監修者の紹介】
木坂里子 東京医科歯科大学卒業 現役歯科医師として勤務