歯の神経が死ぬ原因と対処法
歯の一番内側にある歯髄(しずい)という組織の中には、歯の感覚をつかさどる神経が含まれています。この神経が死んでしまうと、今まで続いたズキズキとした虫歯の痛みも消えてなくなりますが、これは歯にとって決して良い兆候とはいえません。
そのまま放置すれば、歯のみならず体の他の部位にも悪い影響を与えてしまうため、早めの治療をおすすめします。
ここでは歯の神経が死んでしまう原因や対処法、さらに神経が死んで歯に変色が起こった場合の治療法などをご紹介していていきます。
歯の神経が死んでいる可能性がある症状
歯の神経が死んでいる場合、以下に挙げる症状があらわれやすくなります。ただしこれらの症状は他の病気が原因で生じることもあるので、気になる方は早めに歯科医院を受診しましょう。
歯が「しみる」「痛む」などの症状がなくなる
歯の神経には外部から受けた刺激を”痛み“に変えて脳へ伝える働きがあります。その神経が死んでしまうと歯には感覚がなくなるため、それ以後、刺激を受けても痛みを感じなくなります。
虫歯が原因で神経が死んだ場合は、それまでにあった「歯がしみる」「歯がズキズキ痛い」といった症状がなくなりますが、虫歯が治ったわけではないので注意しましょう。
歯の色が黒ずんでみえる
歯の神経が死んでしまうと、それと一緒に歯の血管も死んでしまうため、酸素や栄養が歯に行き渡らなくなります。
そうすると象牙質に含まれるタンパク質が劣化して黒く変色し、その色が透けて歯の色が黒やグレーがかってみえるようになります。奥歯の場合はあまり気になりませんが、前歯の場合は隣り合う歯と比べて、色の変化がかなり目立ってしまいます。
歯の根元の歯ぐきが腫れる
歯の神経は歯根(歯の根っこ)の中の「根管」という管を通って全身の神経につながっています。細菌の感染で神経が死んでしまった場合、その細菌が根管を通じて歯根の先まで広がると、根の先に膿の袋(根尖病巣)をつくることがあります。
膿の袋ができると歯の根元あたりの歯ぐきに“おでき”のような腫れがみられるほか、「食べ物を噛むと痛い」といった症状を感じやすくなります。
歯の神経が死ぬ原因
歯の神経が死ぬ直接的な原因は、神経への「細菌の感染」もしくは「外部からの衝撃」です。ここではこの2つの原因の元となる具体的な病気や現象などを詳しくご紹介していきます。
虫歯
細菌の感染で最も多いのが、虫歯がきっかけで歯の神経が死んでしまうケースです。歯の神経は象牙質やエナメル質といった硬い組織によって保護されていますが、虫歯でこれらの組織が壊れてしまうと、外部から神経に細菌が感染し、炎症を起こします。
この時、歯には激しい痛みをともないますが、そのまま放置すると神経が徐々に死んでいき、やがて痛みを感じなくなります。
歯周病
細菌による感染で虫歯の次に多いのは、歯周病です。歯周病は歯ぐきに起こる病気ですが、歯と歯ぐきの間に生じる「歯周ポケット」を介して、歯の内側の神経に細菌が広がるケースも実は少なくありません。
とくに重度の歯周病で歯周ポケットが深くなると、そのポケット内の細菌が根管を通じて歯の内部に感染しやすくなります。
歯への衝撃
外部からの衝撃では、衝突や転倒などによる歯への衝撃で歯の神経が死んでしまうことがあります。歯への衝撃では歯を打った直後に異常がない場合でも、数カ月後または数年後に歯の変色や歯ぐきの腫れが生じ、神経が死んでいることに気づくケースも多くみられます。
歯ぎしり・食いしばり
歯ぎしりや食いしばりなどで歯に持続的な強い力が伝わると、その衝撃で歯の神経が死んでしまうことがあります。
また強い噛み合わせにより歯にヒビや亀裂が生じた場合、虫歯と同じようにすき間から細菌が入り込み、神経が炎症を起こしやすくなります。
神経の死んだ歯を放置するとどうなる?
虫歯や歯周病など細菌の感染により神経が死んでしまった場合、それを放置すると歯の内部の細菌は根管からさらにその奥の組織へと広がる可能性があります。たとえば顎の骨に細菌の感染が広がると、「歯槽骨炎」や「顎骨炎」、「骨髄炎」などの病気を引き起こします。
これらの病気は患部の腫れや痛みに加え、発熱や倦怠感、食欲不振などの全身症状をともない、症状が重い場合は入院による処置が必要になります。
また上の奥歯では、鼻の両側にある“上顎洞”という空洞に細菌が広がり「上顎洞炎(蓄膿症)」を引き起こすことがあります。上顎洞炎は一般に風邪や鼻炎などが原因で起こる病気で、鼻水や鼻づまり、頭痛、頭重感などの症状が代表的です。
症状だけみると歯とは関連がなさそうに思えますが、実は神経が死んでしまうほど進行した虫歯が上顎洞炎の原因になることもめずらしくありません。このように歯が原因で起こる上顎洞炎は“歯性上顎洞炎”と呼ばれ、上顎洞炎全体の10%ほどを占めるといわれています。
そして神経の死んだ歯を放置した場合に起こりうる最も重篤な症状が「敗血症」です。歯の内部の細菌が血管を通じて全身に運ばれると、全身の各部位にさまざまな障害をもたらすことがあります。
これが敗血症とよばれる状態で、海外では虫歯による敗血症の死亡例も報告されています。 以上のように神経が死んだ歯を放置すると、歯や歯ぐきに異常が起こるだけでなく、体の他の部位にも悪影響を及ぼしかねないため、早めに治療を受けることが肝心です。
▶参考資料:日本鼻科学会会誌「歯性上顎洞炎に対する診断と治療に関する耳鼻咽喉科と歯科の意識調査」
歯の神経を取り除く治療
歯の神経が死んでしまった場合、「根管治療」という処置をおこなって細菌のさらなる感染を防ぎ、歯の温存を図っていきます。根管治療は以下の手順で進められます。
歯を削る
神経は歯の最も内側(エナメル質・象牙質の下)にあるため、治療ではその入り口に到達するまで歯を削る必要があります。さらに虫歯や詰め物、被せ物がある場合は、それらもすべて削り取ります。
根管内の清掃
ファイルやリーマーと呼ばれる細い器具を使って、死んでしまった神経を丁寧に取り除きます。くわえて根管の壁に付着した感染物質もすべて除去し、さらに薬剤を使って根管内を消毒します。この清掃を何回かの通院で繰り返しおこない、根管の中を無菌に近い状態にしていきます。
根管充填
根管内がきれいになったのを確認したら、「ガッタパーチャ」「MTAセメント」という根管専用の詰め物を緊密につめて、根管治療は終了です。
▶歯の神経を抜く"根管治療"の方法は「根管治療(歯の神経の治療)の方法と流れ」の記事をご確認ください。
歯の神経が死んで変色した歯を白くする方法
神経が死んでしまったために生じた歯の変色は、以下の方法で元の白い歯に修復することができます。いずれの方法も上記の根管治療が終わった後におこないますが、どの治療が適切かは個々の歯の状態によって異なるため、詳しくは担当歯科医に相談しましょう。
ブリーチング
ブリーチングは神経が死んだ歯の変色に用いられるホワイトニングです。根管治療が終わったあと、歯の内部に専用のホワイトニング剤を詰めて、歯の色を内側から白くしていきます。
ラミネートベニア
ラミネートベニアはいわゆる“歯のつけ爪”のことで、前歯の変色歯に用いられます。前歯の表面を少し削り、そこに薄いセラミックチップを貼りつけて、歯の色や形を修復していきます。
被せ物
歯の全周を削り、そこへ白い被せ物をかぶせて歯の色を改善していきます。白い材質として代表的なセラミックは、天然歯と同様の色調と透明感が再現できるほか、汚れが付着しにくいので虫歯になりにくいというメリットもあります。
歯のマニキュア
歯の表面に専用のマニキュアを塗り、歯の色を白くしていきます。歯のマニキュアは市販でも販売されていますが、歯科医院でおこなうマニキュアのほうが仕上がりもきれいで、色も長持ちします。
▶神経を抜いて変色した歯を白くする方法は「神経がない歯を白くする方法」の記事をご確認ください。
まとめ
歯の神経が何らかのダメージで死んでしまった場合、「ズキズキとした痛みがなくなる」「歯が黒ずんできた」などの症状があらわれます。
そのまま放置しておくと歯が残せなくなるばかりか、他の組織や全身にも異常をきたすおそれがあるため注意が必要です。症状が気にある場合は根管治療が得意な歯科医院を探し、早めに治療を受けましょう。
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■他の根管治療のコラム:https://teech.jp/column/konkanchiryo
■根管治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/konkanchiryo-interview
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【コラム執筆・監修者の紹介】
影向 美樹
歯科医師免許取得後、横浜・京都の歯科医院にて10年ほど歯科医として勤務。現在は歯科分野を中心とした医療系Webライターとして活動中。