歯の神経を抜く(根管治療)ときに知っておきたい10のこと
歯医者さんでよく耳にする“歯の神経を抜く”という言葉。これを聞いて「そもそも“神経”って何?」「治療は痛くないの?」「神経を取っても歯は残せる?」など、さまざまな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は歯の神経やその治療で知っておきたい10個のポイントについて、詳しくまとめていきたいと思います。もし神経を抜く治療が必要になったら、以下の項目をぜひ参考にしてください。
歯の神経とは?
歯医者さんで「神経を抜きましょう」といわれる際の“神経”とは、専門的には「歯髄(しずい)」と呼ばれる歯の組織のことを示しています。
歯は表面からエナメル質、象牙質、歯髄の3つの組織から構成され、歯髄は象牙質の内側にある歯髄腔(しずいくう)という空洞に存在しています。
その歯髄には神経組織のほかに血管やリンパ管などが含まれ、これらは歯根(歯の根っこ)の中にある根管という管を通って全身の血管や神経につながっています。
歯の神経の役割
歯の神経(歯髄)には以下のような役割があります。
外部からの刺激を感知する
歯髄には神経組織が含まれており、外部から受けた刺激を感知し、脳に伝える働きがあります。ただし歯の神経には皮膚のような触覚(触れられる感覚)や温度感覚はなく、感知した刺激をすべて「痛み」として伝えていきます。虫歯や知覚過敏によくある“歯がしみる”という症状も、実は痛みの感覚の1つです。
歯に酸素や栄養を送る
歯髄には多くの毛細血管が含まれています。その血管を通して歯には十分な酸素や栄養が行き渡り、白く艶やかな状態が維持されます。
歯を虫歯から守る
歯髄には細菌の侵入を防いだり、虫歯が進行した際に新たに象牙質(第二象牙質)を作って防御したりする働きがあります。
抜歯と神経を抜くことの違い
「歯の神経を抜く」と聞くと、人によっては”抜歯“をイメージされる方も少なくないようです。ただ抜歯と神経を抜く治療は、根本的なところで大きく異なります。 抜歯はその名のとおり“歯を抜くこと”であり、これは歯を根元から丸ごと抜き取ることを意味します。
したがって抜歯になるとその部分には歯がなくなり、以後はその代わりとなる人工の歯を補う治療が必要になります。
一方の歯の神経を抜く治療は専門的には「抜髄(ばつずい)」といい、治療では歯の内部にある歯髄のみを取り除いていきます。したがって治療後も歯はその部位に残り、これまでと同じように食べ物を噛むことができます。
歯の神経に問題があるときの症状
歯や歯の神経に問題が生じると、以下のような症状があらわれやすくなります。
歯がしみる
歯には表面に硬いエナメル質が存在し、通常はこのエナメル質が外部からの刺激をシャットアウトしていきます。
しかし虫歯などでエナメル質が失われると、その下の象牙質から歯髄へと刺激が加わるようになり、やがて「歯がしみる」という症状を引き起こします。症状の重さとしては、はじめに“冷たいもの”がしみるようになり、病状が進行すると“熱いもの”がしみるようになります。
噛むと痛い
歯の神経が敏感になると、物理的な刺激が痛みに変わることがあります。代表的なのは、食べ物を噛む時に痛みが出るケースです。また、“噛んだ時に痛い”という症状は、神経を抜いた歯にもよくみられます。これは歯根の先のほうに炎症が起こっている時などに生じやすくなります。
何もしなくてもズキズキ痛い
とくに何もしていないのに歯がズキズキと痛む場合は、歯の神経に炎症が起こっている可能性が高いといえます。このような痛みを「自発痛」といいますが、自発痛には痛みが持続する(ずっと続く)ものと、断続的なもの(出たり出なかったりする)とがあります。
歯の神経を抜く治療(根管治療)の流れ
歯の神経を抜く治療では歯に麻酔を十分に効かせた後、虫歯になった部分や過去に入れた詰め物や被せ物などを取り除き、歯髄が見えるまで歯を削っていきます。
その後、ファイルと呼ばれる針のような器具を使って歯髄を取り除き、さらに根管(歯根の中にある管)を拡大していきます。これは最後に詰める薬剤を根管の先まで緊密に詰めるために必要な処置です。
これらの処置が終わったら、根管内を消毒する薬剤を塗布して1回目の治療が終了です。
1回目の治療後、痛みなどの症状が落ち着き、さらに根管内が清潔であるのを確認できたら、根管内に最終的な薬剤を詰めていきます。
レントゲンで根管の先まで薬剤が緊密に詰められているのが確認できたら、根管の治療は終了となります。根管治療の終了後は、削った部分に詰め物や被せ物をいれていきます。
▶歯の神経を抜く"根管治療"の流れは「根管治療(歯の神経の治療)の方法と流れ」でご確認ください。
歯の神経を抜くメリット・デメリット
歯の神経を抜く治療には、次のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
歯の神経を抜く治療をすると、それまでにあった歯の痛みが治まります。神経を抜くまでに至るケースの多くは、治療をはじめるまでに強い痛みをともない、なかには夜も眠れないほど激しい痛みが続くこともあります。
神経を抜くとこれらの痛みが治療当日から翌日ごろには改善されます。また細菌に汚染された歯質や神経をきれいに取り除くことで、細菌の感染がそれ以上に広がることがなく、歯を温存できるようになります。
デメリット
神経を抜いた歯は神経のある歯よりも寿命が短くなる傾向があります。これは治療によって神経と同時に血管も取り除かれてしまうためです。
神経を抜く治療をすると、以後その歯には酸素や栄養が行き届かなくなり、やがて枯れ木のようにもろくなるほか、歯の色も少しずつ黒ずんでいきます。
また、神経を抜くと痛みを感じなくなるため、その歯が再び虫歯になった場合に痛みの症状があらわれず、発見が遅れやすくなります。
▶歯の神経を抜くメリット・デメリットをもっと詳しく知りたい方は「歯の神経を抜くメリット・デメリット」の記事をご覧ください。
神経を抜く治療の痛みの原因
歯の神経を抜く治療では、治療中と治療後に痛みをともなう場合があります。
治療中の痛み
歯の神経を抜く治療では事前に麻酔処置をおこなうため、基本的に治療中に痛みを感じることはありません。しかし神経の炎症が強くなると麻酔の効果がうまく発揮されず、治療中に痛みをともないやすくなります。
麻酔がきちんと効くようにするためには、虫歯の痛みが強くなる前に歯科を受診し、治療を受けることが肝心です。
治療後の痛み
歯の神経を抜く治療をした当日は、麻酔の効果がきれた後に痛みが出ることがあります。これは治療の際に歯根の先あたりから神経を切断して抜き取るため、その切断面が傷口としてしばらく残るためです。
通常であれば翌日ごろには痛みが治まりますが、痛みが気になる場合は処方された痛み止めで対処します。ただ痛みが長く続く場合や、痛み止めが効かないほど痛みが強い場合は、早めに歯科医に相談しましょう。
また、治療した歯を刺激すると痛みが出やすくなるため、食事もしばらくはその歯を使わないなど安静に保つよう心がけてください。
神経を抜いた歯の寿命
先述にあるように、歯は神経を抜くとその後に栄養や酸素が行き渡らなくなるため、時間をかけて少しずつ衰えていきます。衝撃に弱くなるため、硬いものを噛んだ時に根っこにヒビが入ったり、歯が折れたりすることもめずらしくありません。
また、細菌に対する抵抗力も弱くなるため、歯根の先に細菌が感染して病巣をつくることもあります。
以上のことから、神経を抜いた歯は神経のある歯に比べると寿命が短くなりやすいといわれています。寿命を延ばすポイントとしては、治療が正確で丁寧な歯科医院を選ぶことと、治療後も歯科医院で定期的にその歯をチェックしてもらうことです。
また、少しでもその歯に異変を感じたら、早めに受診するよう心がけましょう。
歯の神経を抜く状態にならないための予防法
神経を抜く原因で最も多いのは虫歯で、さらに重度の歯周病でも神経に炎症が起こる場合があります。虫歯・歯周病の予防では、日頃からセルフケアを徹底することと、歯科医院での定期検診を習慣づけることが大切です。
とくに過去に治療した詰め物や被せ物の中は虫歯になりやすく、自身ではそのことに気づきにくいため、歯科医院で定期的にレントゲンを撮るなどしてチェックしてもらいましょう。
また、歯の神経は外傷によっても炎症を起こし、神経を抜く治療に至ることがあります。転倒や衝突などで歯を強くぶつけた場合、その時はとくに症状がなくても、しばらくして痛みを感じたり、歯が変色をおこしたりすることがあるため注意が必要です。
歯の外傷については症状がでるまでに数カ月以上かかることも少なくないため、経過観察をおこたらず異変に気づいたらすぐに歯科を受診しましょう。
▶歯の神経を抜く状態にしないために、「予防歯科のメリットとケア方法」の記事で予防方法をご確認ください。
歯の神経を抜く(根管治療)際の歯医者の見つけ方
最後に、歯の神経を抜く治療が必要になった際の歯医者さん選びのポイントについて、以下にご紹介しましょう。
できるだけ神経を残すように努めている
神経を取ることがその歯の将来にとって大きなダメージになることは、誰よりも歯科医が一番よく理解しています。したがって神経に明らかな異常がみられる場合を除き、良心的な歯科医であれば多少時間はかかっても神経をできるだけ残そうと努めます。
一方で「今ある痛みを早くなんとかしたい」「治療に時間をかけたくない」という要望を叶えるうえでは、神経を取る治療をするのが最も手っ取り早い方法といえます。しかし早く治すことが、必ずしもその歯にとって良い結果を生み出すとはかぎないことをよく理解しておきましょう。
ラバーダムを使用している
神経を抜く治療をする際には、治療の過程で根管内に新たな細菌が感染しないよう細心の注意を払う必要があります。そのうえで欠かせないのが、「ラバーダム」というゴム製の治療用マスクです。ラバーダムを使用すると、治療の際に唾液や血液を介して内部に細菌が侵入するのを防ぐことができます。
このラバーダムを神経の治療の際に使っているか否かも、歯医者さん選びのポイントの1つとなります。
丁寧で精密な治療に力を入れている
数ある歯科治療の中でも根管治療は難易度が高く、歯科医にはより細やかで繊細な作業が要求されます。そのため近年は歯科用ルーペ(拡大鏡)やマイクロスコ―プ(医療用顕微鏡)、歯科用CTなどを活用し、根管治療の精度向上に努める歯科医も増えています。
歯医者さんを選ぶ際には、このような最新機器を取り入れた精密治療に力をいれている医院を探してみるのもよいでしょう。
▶根管治療が得意な歯科医師が「きちんとした根管治療を行ってくれる歯科医院のポイント」を提示してくれているので、歯科医院選びの参考にしてください。
まとめ
大きな虫歯で歯がズキズキ痛んだり、歯の神経に明らかな異常がみられたりするケースでは、やむをえず神経を抜く治療が必要となります。
しかし、歯にとって神経を抜くことはダメージが大きいため、まずはこのような事態にならないよう日頃から予防ケアを徹底することが大切です。また歯に感じる異常は神経のトラブルのサインである可能性が高いため、見逃さずに早めに歯科を受診するよう心がけましょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■他の根管治療のコラム:https://teech.jp/column/konkanchiryo
■根管治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/konkanchiryo-interview
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【コラム執筆・監修者の紹介】
影向 美樹
歯科医師免許取得後、横浜・京都の歯科医院にて10年ほど歯科医として勤務。現在は歯科分野を中心とした医療系Webライターとして活動中。