根管治療(歯の神経の治療)に”時間”と”回数”がかかる理由
根管治療は、治療の回数や時間がかかる処置です。「なんで何回も通うの?」「いつ終わるの?」と不安になる方も多いかもしれません。今回は、根管治療にはなぜ時間や回数が必要なのかをご説明いたします。
根管治療とはどんな治療?
根管治療の処置を、簡単に説明すると以下の3つに分けられます。
・歯髄を完全に除去
・根管内を無菌化
・空洞化した根管に薬剤を充填
根管は、細く個人個人で形状が異なるため、完全に除去するためには、精巧な技術が必要です。再感染を防止には、無菌化することが必要なため、治療は回数がかかります。
根管治療の回数はどれくらいかかるの?
根管治療は、【神経を除去→根管拡大→消毒→根管内に貼薬→症状の確認→最終的な薬剤の充填】という流れで治療を行います。
“根管拡大→消毒→根管内に貼薬→症状の確認”のステップは症状がなくなるまで繰り返すため回数が多くなります。 治療を効果的に進めるには、治療完了まで週1程度の通院を継続することが大切です。治療開始前に、ご予定やご希望をかかりつけ医に伝えることもスムーズな治療につながります。
それぞれのお口の状態によってことなるため、ご参考程度ですが、具体的な回数は、以下の通りです。
抜髄の回数
抜髄の場合、神経に炎症はありますが、歯髄内に細菌が少ないため、感染根管治療に比べて回数は少なくなります。根管内の感染した歯質も少なく、根管を拡大する号数も小さく収めることが可能です。 号数とは、根管を拡大するために使用するファイルとよばれる器具のサイズのことです。
■保険診療の場合
大まかな回数は、1根管の抜髄で平均2、3回が多いです。根管が多い奥歯の場合には、3回以上を想定しましょう。週1回の来院で、良好であれば1か月以内に完了します。
■自由診療の場合
自由診療は、保険診療と異なり、マイクロスコープやNi-Tiファイル(根管形成、拡大に用いる治療器具)など治療を行う環境が異なります。そのため、治療の精度が上がり、治療回数の削減につながります。複数根管の場合でも、根管の探索に優れるマイクロスコープなどを使用するため3回程度で完了することができます。
感染根管治療の回数
抜髄と異なり、根管内に細菌が感染しているため、清掃や消毒に回数を要します。 根管を拡大する号数も、抜髄に比べると大きくなります。
■保険診療の場合
感染根管治療は、3~5回程度を想定するとよいでしょう。 複数根管(奥歯など)で、感染による根尖病巣(歯根の先に膿がたまっている状態)が大きい場合には、10回程度になることもあります。 週1回の来院で、良好であれば1か月前後で完了します。
■自由診療の場合
自由診療は先述した通り、マイクロスコープやNi-Tiファイルなど治療を行う環境が異なります。そのため、成功率の上昇とともに、治療回数の削減につながります。
また、自由診療では、ラバーダムの使用など、より無菌化した処置に配慮するため、処置効率が上がることが期待でき、通院回数の削減につながります。 感染根管治療であっても、3回程度で完了する場合もあります。
再根管治療の回数
再根管治療は、一度根管充填(根管治療により薬剤を充填し完了した状態)まで行っているため、根管内に充填している薬剤を除去することが必要です。 根管治療が完了し、土台をいれて被せ物まで完了している場合には、被せ物と土台の除去も必要です。
土台を除去する際に、歯根が割れてしまうと歯を保存することが難しくなるため、慎重に除去していきます。 再根管治療は、"被せ物や土台の除去"、"根管内の薬剤の除去"のステップが追加されるため、通常の根管治療より回数がかかります。
■保険診療の場合
再根管治療を保険診療で行う場合には、通常の感染根管治療の回数+2回を想定するとよいでしょう。患者様それぞれの歯の状態にもよりますが、治療済みの土台が太い場合など、除去する際に歯が割れないように慎重に治療を開始してきます。
■自由診療の場合
自由診療の再根管治療も、土台を除去する際に慎重にアプローチする点は同じですが、土台を除去した後に、歯根に亀裂がないかなどを、マイクロスコープで確認することができます。
そのため、やみくもに再根管治療をするのではなく、保存ができるのか、否かを再度顕微鏡下で判定することが可能で、不要な再根管治療の繰り返しを防ぐことができます。 治療の回数は、使用する器具に優れるため3回程度で完了する場合もあります。
根管治療に時間がかかる理由
根管治療は、繊細な作業を要するため、難易度が高く、再発率も高いのが現状です。 毎回、同じ作業をしていて、全然進まない・・・と不安になるかもしれませんが、心配な場合には、かかりつけ医に聞いてみましょう。 根管治療の回数がかかる要因は以下の通りです。
理由1:複雑な根管形態
根管の形態は、歯種によっても異なりますし、患者様それぞれで太さや形が異なります。 根管治療では、残った歯髄の炎症予防のためにも、すべての根管にある神経を除去することが重要です。根管の形態をファイルと呼ばれる器具で精密に追えることがポイントです。
理由2:仮封の不適合
仮封とは、治療途中に仮詰するセメントのことです。 ブラッシングや飲食で取れないように行っていますが、何らかのきっかけで外れてしまうことや、隙間ができることがあります。 その場合、根管内に唾液が流入し汚染されるため、治療の回数が増えてしまいます。 外れてしまった場合には、予約のタイミングを早めることをお勧めします。
理由3:治療の中断
急な転勤や、進学による転居など、かかりつけ医に通院が難しくなった時に起こることですが、治療を中断してしまうと、再度根管内の清掃をやり直さなくてはなりません。
仮詰しているセメントは、材料の性質上、緊密ではありません。そのため、長期間の使用には適していないのが現状です。せっかくの治療にかけた時間や費用が無駄になってしまうので、根管充填までは、治療を完了することをお勧めします。
根管治療ができないケース
残念ながら、根管治療を行うことができない歯も存在します。その場合、抜歯が適応となるため、十分な検査をもとにした診断を受けることが大切です。想定される根管治療が不適なケースとは、以下の通りです。
残存歯質の不足
根管治療を完了した後は、土台を作って被せ物をする補綴治療へと移行します。土台をセットするには、十分な歯質が必要です。 虫歯が進行し残せる歯質量が見込めない場合には、根管治療を行うことができません。奥歯の場合、髄床底とよばれる歯冠の底まで虫歯が進行している場合が該当します。
歯根破折
歯根は、歯肉に覆われているため目視で亀裂を確認することはできません。 しかし、感染の再発や、治療による症状の改善が見込まれない場合には、歯根破折を疑う必要があります。歯根破折の診断は、レントゲンやCTによる診断の他、根管治療の自由診療で使用されているマイクロスコープでも確認することができます。
再根管治療の繰り返し
感染の再発により、再根管治療を行う場合、器具により歯質を削るため、回数が増えれば増えるだけ、歯質が薄くなり、保存が難しくなります。 再根管治療により、根管形態が不正になると、成功率が治療後2年のフォローアップで47%(※)という報告もあり、不適切な治療の繰り返しは歯の保存を難しくしてしまいます。
▶※参考資料「Fabio G M Gorni :The outcome of endodontic retreatment: a 2-yr follow-up」
まとめ
根管治療は、時間と回数がかかる治療方法です。 再発を防ぐためにも、根管治療を得意とする歯科医師を見つけることが大切です。
根管治療は、保険診療の他、自由診療での診療を提供している歯科医院もあります。
自由診療は費用負担が高額ですが、より精密な治療精度や、治療にかかる回数や時間を削減できる可能性があります。 再発にお悩みの方は、一度自費診療での根管治療を選択肢の1つとすることもよいかもしれません。
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■他の根管治療のコラム:https://teech.jp/column/konkanchiryo
■根管治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/konkanchiryo-interview
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【コラム執筆・監修者の紹介】
木坂里子
東京医科歯科大学卒業 現役歯科医師として勤務