【神経の治療(根管治療) ひので歯科医院院長( 群馬県伊勢崎市) NPO法人ECJ副理事長 高橋宏征先生】
今回は歯の神経の治療「歯内療法(根管治療)」について、歯内療法(根管治療)を専門で治療されている「ひので歯科医院」の院長で、根管治療・歯内療法専門医の視点から情報提供することで根管治療・歯内療法の発展に貢献することを使命としたNPO法人ECJ(Endodontic Center of Japan)(※1)の副理事長の高橋宏征先生に歯内療法(根管治療)を受診するうえで「きちんとした根管治療を行ってくれる歯科医院のポイント」についてお話を伺いました。
※根管治療は歯内療法の一部の治療ですが、インタビュー内容では歯内療法より根管治療の方が患者さんにとって一般的な言葉のため、歯内療法のことを根管治療に置き換えている箇所があります。
Q1.先生はなぜ歯科医師になられ、そして根管治療を専門とされたのでしょうか?
歯科医師は親が歯医者の先生という方が多いのですが、私の親は歯科医師ではありません。
父は自営業を営んでおり、自分でも将来は自営業がいいなぁと思っていました。と同時に、高校生の時に医療にも興味があり歯科医師を目指しました。
歯内療法(根管治療)を専門にしようと思った理由ですが、実は視力が落ちてきたことが理由です。
大学を卒業して15・6年間は一般的な歯科医院をやっておったのですが、自分の理想とする治療と現実の治療との乖離があり、それに悶々としていました。
それと同時に、視力が落ちてきてルーペ(拡大鏡)を購入したところ「良く見えるな!」と実感し、より良く見えるマイクロスコープだと、どれくらいよく見えるのか?と思い、知り合いの先生に相談したところ「良いマイクロスコープを買った方が良いよ」とのことだったので、かなりの値段がするマイクロスコープを購入したんです。
せっかく高価なマイクロスコープを購入したのだからと、しっかり臨床で使えるようにしたいと思い、単発のセミナーではなく、継続して学べるしっかりしたスタディクラブに参加しようと思い、石井宏先生が主宰する歯内療法(根管治療)を専門とするスタディクラブPENN ENDO STUDY CLUB IN JAPANの存在を知り、ご縁があり入会させて頂き、勉強を積み重ねた結果、現在では歯内療法(根管治療)を専門とする歯科医院になっております。
でも、まぁ~、根管治療を専門にしたきっかけは、視力が落ちてきたからですね。
Q2.歯科治療において、先生が大切にしていることは何でしょうか?
歯科医師になって10年ぐらいのときは、すべての治療ができないとダメ、できない治療があることが恥ずかしいと思っていましたが、今思うと、その時点その時点でできること・できないことの境界をしっかり患者さんにお伝えし、その上で患者さんに治療の選択をしてもらい、自分ではできない治療は他の先生を紹介しておけばよかった、と思っています。
1人の歯科医師がすべての治療ができるのは理想だと思いますし、できる先生もいらっしゃるのではないかと思います。
個人的な感想では、臨床力の高い歯科医師ほど専門的に特化し、緩やかな連携をとって患者さんのためにより良い選択肢と治療を提供しているのではないかと感じています。
要するに、すべての歯科医師が、すべての治療ができるわけではないので、自分の守備範囲(できる治療)はここです、と堂々と患者さんに示せることが誠意のある診療だと思っています。
Q3.前回、Teechでインタビューをさせて頂きましたECJ理事長の渡邉征男先生へのインタビューで、NPO法人ECJで「きちんとした根管治療を行ってくれる歯科医院のポイント(※2)」を提示されていると伺いました。そして、それを提示することを推奨されたのが高橋先生だと伺っていますが、提示した背景を教えて頂けますでしょうか。
(ECJ理事長の渡邉征男先生へのインタビューはこちら)
ECJのサイトへ患者さんからのあらゆるご質問を受ける中で、もっとも多い質問のうちの一つは「きちんとした根の治療のことについては理解できました。では、きちんと根の治療をしてくれる歯科医院はありませんか?」というものです。
患者さん自身は「きちんと治療をしたい」と真剣に悩んでおられるのに、それに応える歯科医院の目印、目安がないのが現状です。逆に「歯内療法が得意です」と宣伝している歯科医院であっても、生物学的なルールに則った歯内療法とは程遠い治療を行なっておられる歯科医院が存在することも事実です。
それらに対する回答に、私の経験が活かせるのではないかと思ったのです。
私は2011年にPENN ENDO STUDY CLUB IN JAPANに入会し、2012年にかけて歯内療法(根管治療)をより専門的に学ぶことにより、それまで自分自身が疑問に思っていたことが明快になり、歯内療法の臨床がガラリと変わり、生物学的なルールに則った歯内療法を行うには抑えるべきポイントがあることがわかりました。
それらをまとめ、患者さん向けに提示することが患者さんにとってのメリットになると思いサイトに掲載しました。
また、PENN ENDO STUDY CLUB IN JAPANに所属している歯科医師であっても、日々の臨床を一定のレベルに保ち続けていくことに緩みが出ないよう、患者さんの目があることを意識して正しい臨床を続けていくために我々自身を律する、という意味合いもあります。
Q4.「きちんとした根管治療を行ってくれる歯科医院のポイント」を1つずつ伺っていきたいのですが、まず、「その1”話を聞いてくれる”」ですが、聞いてくれないことがあるのでしょうか?
歯内療法となると特にそうなのですが、治療する歯自体に問題(過去の治療の痕やむし歯などによる欠損)があることが多いため、問診をおろそかにすることが少なくないことも事実です。
しかしながら現在の歯の症状の有無、以前の治療はいつ頃行ったのか?全身状況はどうなのか?など患者さんによってお伺いすることは様々です。
具体的に言うと、歯が痛いとひとくちにいっても、今現在痛いのか?今は痛くないのか?、何もしなくても痛いのか?何かすると痛いのか?冷たいものはしみるのか?熱いものは痛いのか?噛むと痛いのか?痛みは噛むたびに痛いのか?鼻づまりはあるか?など色々とお伺いすることで歯の神経の状態を推察することができるので、詳しく話を聞くという事は重要です。
Q5.「その2”目で見るだけでなくいくつかの診査を行う”」ですが、具体的にどんな診査がありますでしょうか?
例えば、冷たいもので刺激をあたえ痛みを感じるかを確認する診査があります。
刺激を与えたときに、痛みを感じるがすぐ治まるなら正常の範囲だと言えます。刺激を与えた途端に激痛、または与えた後しばらく時間が経っても痛みがあるなら炎症があると考えられます。何も反応が無ければ、いわゆる神経が死んでいる状態だろうかと考えます。
その他には、熱いもの与える診査、電気で刺激を与え反応があるかどうかの診査、叩いて確認する診査、根の先付近の歯肉を押して確認する診査、光を当てて歯が割れているか確かめる診査、マイクロスコープで拡大して歯の欠損部があるかどうかの診査・・・などなど。
ただ、1つの診査ではわからないことが多く、いくつかの診査をした上で「総合的に判断して歯の神経の状況を想像する」必要があります。
なので、上記に示した診査は我々では必ず行う診査です。
それに加えて、患者さんよって他の診査をする場合もあります。
例えば、歯が原因ではないのに歯が痛い患者さんもいらっしゃるんです。そのようなことが疑われる患者さんには麻酔をすることがあります。麻酔をしても痛みが取れないなら原因はその歯ではない可能性があります。
Q6.「その3”レントゲンを撮影し、病気の状況の説明がある”」ですが、レントゲンは必須ですか?
必須ですね。骨(歯)の中の病気なので肉眼では確認できませんので。
Q7.「その4”治療後の予後の見通しの説明がある ”」ですが、詳しく教えて頂けますか。
ほとんどの先生は予後の見通しを患者さんに伝えていると思いますが、治るかどうかわからない旨をお伝えしたり、治らない場合は抜歯になることをお伝えするとは思います。
ただ、我々がお伝えしている予後の見通しですと、ルールに則った科学的根拠のある治療をしているため、症状・状況に合わせて、文献からの統計データを用いて成功確率が何%ですとお伝えするようにしています。
治らない場合は外科的な対応によって、何%の確率で治るかもしれないとお伝えします。
Q8.「その5”術後の痛みの可能性など、その対応の説明がある”」ですが、これはどういった内容でしょうか。
術後に痛みがでることは特別なことではないのですが、痛みの出方が一般的ではないことや、想定より痛む期間が長い場合など、異常がある場合はすぐ連絡してほしいと思っています。
どのように痛むのか、どれくらいの期間痛むのかなど一般的な状況を事前にお伝えしますが、異常が出たときの対応についても説明するようにしています。
Q9.「その6”治療法について説明がある”」は当然だと思いますが、「その7”根管治療以外の治療方法やその他の選択肢について説明がある”」について、根管治療以外の治療方法があるのでしょうか。
「治療法についての説明がある」については、治療のバリエーションの説明があるか、ということです。
例えば、神経にぎりぎり近いが神経に異常がみられない場合、神経を残すという選択肢もでてきます。ただ、それはやってみないと分からないこともある、という事を事前に説明し、うまくいかなかった場合は次の選択肢はこのようになります・・・・という治療のバリエーションをしっかり事前に説明があるかという事です。
「根管治療以外の方法やその他の選択肢」については、何もしないか、抜歯です。
何もしないというという選択肢をとっている方は意外といらっしゃいます。強い痛みを通り越すと最後は痛くなくなるので・・・神経が死にますので。
あまりおすすめしないですが(笑)
抜歯という選択は条件によっては正しい選択の一つです。
根管治療は初めての歯の治療だと成功確率が高いのですが、何回も根管治療をしている歯だと成功確率が下がるため、抜歯の選択肢を提示することもあります。
Q10.「その8”質問をする機会や雰囲気に問題がない”」状態が作れていない歯科医院は問題ですよね。「その9”治療に関する説明・同意書が用意されている (インフォームドコンセント)”」ことについてですが、私(インタビュアー)は根管治療で同意書にサインをしたことないのですが、同意書が必要なぐらい重たい治療なのでしょうか。
我々が根管治療に同意書を頂くのは、根管治療という治療の重要性を重く感じているからです。
同意書を用意している、ということは歯科医師がそれだけ責任を感じているということあらわしています。
それと同時に、われわれ歯科医師自身を律するためでもあります。
Q11.今までは基礎編の内容でしたが、続いて応用編を伺っていきます。「その1”滅菌等の環境整備がなされている”」ですが、歯の神経を治療するので当然重要ですね。
歯の根(神経)の病気は細菌感染が原因なので、感染した細菌をどれだけ減らせるかが治療のキモになります。
滅菌等の環境整備をしていない治療はありえないと我々は思っております。
Q12. 「その2”ラバーダム(ゴムのシート)を使用している”」ですが、ラバーダムを使用している医院さんは多いのでしょうか。
ECJの会員はラバーダム(ゴムのシート)を使用していますが、一般の歯科医院ですとラバーダムを使用している歯科医院は少ないと思います。
ラバーダムは唾液から菌が入らないようにする役割が大きいのですが、根管治療で使用する薬液(次亜塩素酸ナトリウム、EDTA,CHX,etc…)を安全に使うためのものでもあります。
根管治療では機械的に清掃したり、薬液を使用し根管内の消毒をしますが、その際にラバーダムをしないで、万が一のことがあると、機械的、化学的に歯や歯周組織を傷害してしまうことがあります。それを防ぐ意味でもラバーダムを使用する必要があります。
また、根管治療はファイルという細かい針を使用し治療をするのですが、それを誤って落とした場合、患者さんが飲み込んでしまう可能性があります。そのような状況でもラバーダムがあれば患者さんが誤飲すること防ぐことができます。
ラバーダムは一般的に無菌的な環境を作るために使用すると言われていますが、実は事故防止の側面もあります。
Q13.「その3”マイクロスコープを使用している”」ですが、根管治療には必ず必要でしょうか。また拡大鏡(レンズに小さいルーペがついている眼鏡)ではダメでしょうか。
マイクロスコープを使用せず、拡大鏡でも根管治療は可能な先生はおられると思います。
ただ、照明が同軸でないため明るさが確保しづらく治療はやりづらいと思います。また、後で治療を振り返ることができません。マイクロスコープは録画装置を用意することによって治療の録画できるので、患者さんに対しての説明や治療をする先生の研鑽のためにもマイクロスコープの方が良いと思います。
例えば、治療を始めてみたら歯が割れていることもあります。その際、患者さんに「歯が割れています」と口頭で伝えたとしても、本当に割れていることを患者さんは確認できませんが、マイクロスコープがあれば患者さんも確認できるので納得して頂けると思います。
Q14.「その4”1日のうちどれくらいの割合で根管治療を行なっているか?”」ですが、やはりコンスタントに根管治療をしている歯科医師の方が良いのでしょうか。
以前の私がそうであったように、一般的な歯科医師は、1日の治療の中で虫歯治療をしたり歯周病治療をしたり入れ歯を作ったり・・・いろいろな治療をしています。そうした中で根管治療もしています。
つまり、相対的に根管治療をしている時間が少なくなります。
一方、我々は根管治療しか治療していないので、根管治療に費やす時間・経験が他の歯科医師よりも当然多くなります。根管治療を専門にしていますので、検査の項目数も違ってきますし、日々の学習も効率的になっています。
そういった意味でも、1日のうちどれくらいの割合で根管治療を行っているかは重要になります。
根管治療専門ということで言えば、我々は歯科医師からの紹介も多く、根管治療が終われば、かかりつけの歯科医師に患者さんの状況を共有します。プロの歯科医師に共有するので、治療後のレポートやレントゲン撮影も緊張感をもって行っています。
患者さんから見ても、プロの歯科医師がみても誰から見ても恥ずかしくない治療を目指し日々診療に取り組んでいます。
患者さんからたまに聞かれるのですが、「一般開業医と専門医との違いってなんですか?」簡単にお答えすると「いろいろな料理を出すお店が作るうな重と、うなぎ屋さんが作るうな重の違いのようなもの」とお答えさせてもらってます。
Q15. 最後に患者さんに向けてメッセージをお願いします。
私が大学を卒業した20年前と比べて、歯科治療は細分化され各治療の専門性が高まっています。以前では治療できなかったものが治療できるようになっているのです。
ですから、今通っている歯医者さんで「抜歯です」と言われても、より専門性の高い歯科医院に相談すると、もしかしたら残せる可能性があるかもしれません。
ぜひ、いろいろな歯科医院に相談してみてください!
【ひので歯科医院 高橋宏征先生について】
■ひので歯科医院
〒372-0022 群馬県伊勢崎市日乃出町1106−1
ひので歯科医院 Teech掲載ページ 【https://teech.jp/hospital/61661】
ひので歯科医院 医院ホームページ 【http://hinode-shikaiin.com/】
■経歴
1995年 日本歯科大学新潟歯学部卒業
1995年 埼玉県長栄歯科クリニック入局
1998年 埼玉県某歯科医院分院長
1999年 ひので歯科医院開業(歯内療法・根管治療の専門医院)
2012年 ペンシルバニア大学歯内療法学教室マイクロサージェリーコース終了
2013年 (株)松風NiTiファイルセミナーインストラクター就任
2014年 第35回日本歯内療法学会学術大会大会会長賞受賞
■認定医
PESCJ(PENN ENDO STUDY CLUB IN JAPAN)歯内療法認定医
■所属
NPO法人Endodontic Center of Japan 副理事長
米国歯内療法学会(AAE)
日本歯内療法学会(JEA)
関東歯内療法学会 理事
日本審美歯科学会
日本顕微鏡歯科学会
PENN ENDO STUDY CLUB IN JAPAN 関東支部会 会長
エンドドンティックセンターオブジャパン副理事長
※1 NPO法人ECJについて(公式HP:https://www.ecj.or.jp/)
広く一般市民、歯内療法施術者等に対して、歯内療法の啓発並びに情報の提供に関する事業、歯内療法施術者の知識・技術の向上のための支援に関する事業を行い、歯内療法分野の質の向上と国民の保健・医療の増進を図り、もって広く公益に寄与することを目的とするために発足したNPO法人
※2 NPO法人ECJのコラム
・きちんとした根管治療を行ってくれる歯科医院の9つのポイント(基本編)http://urx.blue/MPVz
その1”話を聞いてくれる”
その2”目で見るだけでなくいくつかの診査を行う”
その3”レントゲンを撮影し、病気の状況の説明がある”
その4”治療後の予後の見通しの説明がある ”
その5”術後の痛みの可能性など、その対応の説明がある”
その6”治療法について説明がある”
その7”根管治療以外の治療方法やその他の選択肢について説明がある”
その8”質問をする機会や雰囲気に問題がない”
その9”治療に関する説明・同意書が用意されている (インフォームドコンセント)”
・きちんとした根管治療を行ってくれる歯科医院の4つのポイント(応用編)http://urx.blue/NOVh
その1”滅菌等の環境整備がなされている”
その2”ラバーダムを使用している”
その3”マイクロスコープの使用している”
その4”1日のうちどれくらいの割合で根管治療を行なっているか?”