神経がない歯を白くする方法
大きな虫歯などが原因で歯の神経を抜く治療をした場合、しばらくしてその歯が黒っぽく変色してしまうことがあります。
歯の変色では着色汚れによる“歯の黄ばみ”が有名ですが、この黄ばみと神経のない歯の変色とでは色が変わるメカニズムが異なるため注意が必要です。
ここでは神経のない歯が変色する原因や、変色した歯を白くする治療法などを詳しくご紹介します。
歯の構造を知ろう
歯の色と神経の関係を知る予備知識として、まずは歯の基本的な構造についておさらいしておきましょう。
歯は基本的に表面から「エナメル質」「象牙質」「歯髄」「セメント質」の4つの組織から構成されます。また歯根部(歯の根っこ)にはエナメル質がなく、象牙質の外側は「セメント質」という組織に覆われています。
ではそれぞれの組織について、以下に詳しく解説していきましょう。
エナメル質
歯の一番外側を覆っているエナメル質は体の部位の中でもっとも硬く、その硬さは水晶と同等といわれています。
この頑丈なエナメル質が外界の刺激から歯を守ってくれるおかげで、私たちは冷たいものや熱いものを美味しく食べることができます。
色は半透明で、エナメル質の表面や内側に食べ物などの着色物が沈着すると、歯が黄ばんで見えるようになります。
象牙質
エナメル質の下にある象牙質は、エナメル質よりも少し軟らかく、黄色を帯びている組織です。私たちの歯の色は、象牙質の色がエナメル質から透けてみえる度合いで決定づけられます。
日本人の歯の色が欧米人よりも平均的に黄色っぽく見えるのは、欧米人と比べて日本人のエナメル質が薄く、象牙質の色がより透けて見えてしまうためです。
その象牙質には「象牙細管」という細い管があり、外界からの刺激はこの象牙細管を通じてその奥の神経(歯髄)に伝えられます。
歯髄
歯の一番内側にある歯髄には、歯の知覚(痛み)をつかさどる神経と、歯に酸素や栄養を送る血管が含まれています。
大きな虫歯などで歯髄にまで細菌が感染した場合、汚染された歯髄を丸ごと取り除き、細菌の感染がそれ以上奥まで広がらないように処置をおこないます。
これが一般に「神経を抜く」といわれる治療で、専門的には「抜髄(ばつずい)」もしくは「根管治療」と呼ばれます。神経を抜くとそれ以後は歯に酸素や栄養が届かなくなるため、歯は枯れ木のように少しずつ弱っていくほか、時間の経過とともに歯の色も黒っぽく変色していきます。
セメント質
セメント質は歯根(歯の根っこ)の表面を覆う組織です。通常は歯ぐきに覆われて見えませんが、加齢や歯周病などで歯ぐきが痩せてしまうと、少し黄色を帯びたセメント質が露出して見えるようになります。
セメント質と骨の間は「歯根膜」という弾力のある繊維でつながれており、この歯根膜が外部からの衝撃をやわらげるクッションの役割を果たしています。
神経を抜いた歯が変色する理由
歯の変色に対する治療は、変色の原因を把握しないと正しい治療法を決められません。
そのため歯科医師または歯科衛生士が携わっていないセルフホワイトニングのサロンでは、たまたま変色の原因と施術メニューがマッチすれば効果は期待できますが、そうでない場合も少なくありません。
そこで、ここでは歯が変色する原因を見ていきましょう。
歯の変色の原因は大きく分けて「外因性」と「内因性」があります。
外因性は歯の表面の着色です。喫煙習慣があったりコーヒーやお茶をたくさんお飲みになる方は「ステイン」とよばれる表面の着色がつきます。
歯の神経の治療である根管治療に関わる歯の変色は内因性になります。
内因性は歯そのものに変色の原因があります。
内因性の変色は神経の生きている「生活歯」と、神経が死んでいる、もしくはすでに神経の治療をしている「失活歯」では対応が変わります。
ちなみに、虫歯以外でも歯の神経が死んでしまうケースがあります。
外傷など歯に直接強い衝撃が当たった場合は自覚症状がないまま神経が死んでしまうことがあります。受傷直後よりも数ヶ月や数年たってから歯の色が変わるのが特徴です。また、すでに根管治療を行われている歯も治療を終えてからしばらく経過したのちに歯の色が変わってくる場合があります。
いずれの歯の変色も、歯の神経と一緒に走行している血液の成分が時間がたって外側にしみだしてくると言われています。
▶歯の神経が死ぬ原因を知りたい方は「歯の神経が死ぬ原因と対処法」の記事をご確認ください。
変色した歯の治療方法と注意点
では神経のない歯を白くしたい場合に、どのような治療が一般的におこなわれているのかを詳しくご紹介していきましょう。
ホワイトニング
■外因性に対する治療法
歯科医院で行うPMTCとよばれる歯科衛生士による専門的なポリッシングが有効です。ステインを除去するのみでなく、歯の表面がツルツルになりますのでステインが付きにくくなる効果も期待できます。
外因性の変色に対しては、ホワイトニング専門サロンで行う歯の表面の汚れを浮かせる施術も効果が期待できますが、ポリッシングを行わないとすぐにまたステインが付着してしまうので効果が一時的になります。
■内因性に対する対処法(生活歯の場合)
生活歯の歯の変色に対してはホワイトニングが一般的に行われます。
オフィスホワイトニングが歯科医院で行う施術、ホームホワイトニングはご自宅で行います。また、その両方を行うデュアルホワイトニングも一般的になってきました。
生活歯の中でも
・歯の色が濃いケース
・暗い部分と明るい部分のコントラストが強いケース
・加齢による色調の変化
はホワイトニングの効果が出づらいとされており、ホワイトニングを得意とされている歯科医院にご相談をすべきです。
■内因性に対する対処法(失活歯の場合)
ホワイトニングの適応は生活歯と同じですが、施術前に根管内の血液成分をしっかりと洗浄しないと再び変色してしまいます。
根管治療中に使用する消毒液である次亜塩素酸は、血液成分を洗い流す作用に加え漂白作用もありますので根管治療をしっかりと行うことである程度のホワイトニング効果も望めます。
失活歯に行うホワイトニングもオフィスとホームホワイトニングがあります。
オフィスホワイトニングでは歯の表面と根管内にホワイトニング材を塗布し、内側からもホワイトニングを図ります。基本的には一回の施術で効果を期待できます。
失活歯のホームホワイトニングは「インターナルブリーチング」や「ウォーキングブリーチ」ともよばれます。根管内にホワイトニング材を挿入し漏れないように上からしっかりと蓋をした状態でしばらく生活していただきます。
セラミックなどの被せ物
歯の全周を削り、被せ物を入れて歯の色を修復します。歯の形態や歯並びも同時に整えられるのがメリットです。
また神経のない歯は歯質が弱くなりやすい傾向があるため、被せ物を入れることで強度を補強するという利点もあります。
一方で被せ物は歯質を大きく削る必要があるほか、セラミックなど審美性の高い材質を選択する場合は、他の治療法と比べ費用も高くなります。
歯のマニキュア(コーティング)
歯の表面に専用のマニキュアを塗り、歯の色を改善していきます。市販品を購入して自分で塗る方法と、歯科医院で施術をおこなう方法があり、いずれも短い時間で歯を白くすることができます。
歯科医院でおこなうマニキュアはカラーバリエーションが豊富で仕上がりもよく、効果が長持ちしやすいのでおすすめです。ただしその効果は長くても1~3ヶ月程度ですので、繰り返し施術をおこなう必要があります。
まとめ
神経のない失活歯の変色は歯の内側で生じているため、歯磨きやクリーニング、また一般的なホワイトニングなどで色を改善することができません。
そこで失活歯の色が気になる場合は、歯科医院でのホワイトニングや被せ物などから治療法を選択していきます。
それぞれの治療法にメリットとデメリットがあるため、本記事を参考に、まずは歯科医院で自身にあった方法を相談してみましょう。
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■他の根管治療のコラム:https://teech.jp/column/konkanchiryo
■根管治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/konkanchiryo-interview
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【コラム執筆歯科医師・監修歯科医師】
初台 はまだ歯科・矯正歯科 院長 濱田泰子先生
▼医院について
Teech掲載ページ:https://teech.jp/hospital/19711
医院ホームページ:https://www.hamada-dc.com/
〒151-0071 東京都渋谷区本町1-2-5 初台AIビル2F
▼経歴
2005年 日本歯科大学 歯学部 歯学科卒業
2010年 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 博士課程修了
2010年 焼津市立総合病院 歯科口腔外科
2014年 はまだ歯科医院 開院
2016年 PESCJ第7期生として、根管治療を専門に1年間履修(その後、認定医を取得)
2021年 病院名を初台 はまだ歯科・矯正歯科に変更
▼資格
PESCJ認定医
※PESCJについて:ペンシルバニア大学歯内療法学科(根管治療)の臨床コンセプトとテクニックを広く伝えることを主な活動として、2009年に設立したスタディークラブです。
▼共著
『世界基準の臨床歯内療法 第2版』
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【コラム執筆者の紹介】
影向 美樹
歯科医師免許取得後、横浜・京都の歯科医院にて10年ほど歯科医として勤務。現在は歯科分野を中心とした医療系Webライターとして活動中。