ワイヤー装置vsマウスピース矯正するならどっちが良いの?
歯並びの乱れを細かく整える“矯正歯科治療”は、ワイヤー矯正とマウスピース型矯正の2つに大きく分けることができます。ここではそんなワイヤー矯正(表側矯正・舌側矯正)とマウスピース型矯正についてそれぞれ特徴を比較し、優れている点、劣っている点をわかりやすく解説します。
ワイヤー装置とマウスピースの比較
始めに、表側矯正・舌側矯正・マウスピース矯正を比較した表を掲載します。
見た目
それぞれの矯正法の見た目には、以下のような違いが見られます。
表側装置
その名の通り、歯列の表側にブラケットと金属製ワイヤーが設置されることから、審美性に最も劣ります。
舌側装置
ブラケットとワイヤーを歯列の裏側に設置するため、正面から見ると何も装着していないように見えます。ある意味で最も目立たない矯正装置といえます。
マウスピース
透明な樹脂製のマウスピースを装着する矯正法であり、周囲に気付かれにくいです。接客業など、人と間近で接する機会の多い人におすすめの矯正法です。
費用
それぞれの矯正法の費用相場は以下の通りです。
表側装置
一般的な全顎矯正(歯列全体を矯正する治療)では、800,000~1,000,000円前後の費用がかかります。審美性の高いワイヤーやブラケットを選択すると、費用はさらにかさみます。
舌側装置
舌側矯正にかかる費用は、1,000,000~1,200,000円程度です。3つの矯正装置の中では最も高額となります。
マウスピース
マウスピース型矯正装置は、800,000円程度の費用がかかります。3つの矯正装置の中では最も低額となります。
▶矯正歯科治療が高い理由を知りたい方は「矯正歯科治療が高額な理由と費用の内訳を解説」の記事で詳しくご確認ください。
治療期間
それぞれの治療に要する期間は以下の通りです。
表側装置
表側装置の矯正期間は、1~3年程度です。抜歯が不要な比較的軽度の症例であれば、1~2年程度で終わりますが、便宜抜歯を行って、歯を大きく移動する症例では3年程度かかります。
舌側装置
舌側装置の矯正期間は、表側装置よりも少し長くなる傾向にありますが、基本的には2~3年程度です。歯列の裏側から矯正力を働かせるという性質上、1年程度の短期間で治療を終えることは難しいです。
マウスピース
マウスピース矯正にかかる期間は、1~3年程度です。表側矯正同様、軽症は1年程度で終わることもありますが、基本的には2~3年の治療期間を要します。
一回の治療時間
それぞれの装置の一回あたりの治療時間は以下の通りです。
表側装置
ブラケットやワイヤーの調整を行うため、一回の治療で1時間以上はかかります。矯正用ワイヤーを屈曲するなど、細かい作業が必要なので、どうしても一回当たりの治療時間は長くなります。
舌側装置
舌側装置も表側装置と同様、一回の治療で1時間以上はかかります。施術部位が歯列の裏側ということもあり、表側矯正より治療時間が長くなることも珍しくありません。
マウスピース
マウスピース矯正の一回あたりの治療時間は、30~60分程度です。マウスピース矯正では装置の細かな調整等が不要なので、比較的短い時間で診療が終わります。
急な対応の頻度
矯正装置によっては、急な対応が必要となる頻度は異なります。
表側装置
ブラケットが外れる、ワイヤーが口腔粘膜を傷つけるなど、比較的トラブルが起こりやすい矯正装置です。マウスピース矯正と比べると急な対応の頻度も高くなります。
舌側装置
舌側装置も表側装置と同様、マウスピース矯正よりは急な対応が必要なる頻度も高くなります。
マウスピース
マウスピース矯正は、2週間に一度、患者自身が交換する装置です。装置が外れたり、口腔粘膜を傷つけたりすることはほとんどなく、急な対応が求められる場面も少ないです。仮にマウスピースが破損してしまっても、すぐに複製することができます。
痛み
それぞれの矯正装置に伴う痛みは以下の通りです。
表側装置
比較的強い力で歯を移動させることから、治療に伴う痛みも少し強くなります。また、装置が複雑な形状を呈しており、歯茎や口腔粘膜への刺激も起こりやすくなっています。
舌側装置
表側装置と同じ理由で、マウスピース矯正よりは強い痛みが生じやすいです。
マウスピース
比較的弱い力で歯を移動させるため、治療に伴う痛みも弱くなっています。マウスピースは薄くて滑らかな形状を採っているので、歯茎や口腔粘膜への刺激も少ないです。
▶矯正歯科治療時に痛みが出る理由は「歯の矯正(矯正歯科治療)~4種類の痛みと痛む期間・緩和策~」の記事で詳しくご確認ください。
食事
それぞれの矯正装置には、食事の際に以下のような注意点があります。
表側装置
極端に硬いものや粘性の高いものは避けた方が良いです。また、装置の中に食べかすがたまりやすく、食後には念入りな口腔ケアが必須となります。
舌側装置
舌側装置も硬いものや粘性の高いものは装置の破損につながるため、できるだけ避けましょう。ただ、表側矯正とは異なり、唾液による自浄作用が働きやすいことから、食べかすなどの停滞は比較的起こりにくくなっています。とはいえ、マウスピース矯正よりは虫歯・歯周病リスクが高くなります。
マウスピース
インビザラインに代表されるマウスピース型矯正は、食事の際に必ずマウスピースを取り外します。そのため、矯正を始める前と同様の食生活を送ることが可能です。マウスピースを着けたまま食事をすると装置が破損しますので、絶対に避けるようにしましょう。
▶矯正歯科治療中に注意するべき食事の知識は「矯正歯科治療中に気を付けたい食事~オススメ&NGも紹介~」の記事で詳しくご確認ください。
虫歯・歯周病リスク
虫歯や歯周病のリスクは、それぞれの装置で異なります。
表側装置
表側装置は、3つの中で最も虫歯・歯周病リスクが高いです。ブラケット内に食べかすやプラークが溜まらないよう、セルフケアを徹底する必要があります。
舌側装置
舌側装置は、マウスピース矯正と比べると、明らかに虫歯・歯周病のリスクが高いです。唾液による自浄作用が期待できるという点で、表側矯正よりも少しだけ汚れが溜まりにくい装置といえます。
マウスピース
マウスピース型矯正では、原則として食事と歯磨きの際に装置を取り外します。そのため、矯正治療中でも虫歯や歯周病のリスクが上がるということはありません。
自己管理
自己管理という観点からは、3つの装置で以下のような違いがあります。
表側装置
固定式の装置なので、基本的に自己管理をする必要はありません。
舌側装置
表側装置と同様、固定式であるため、自己管理しなければならない点はありません。
マウスピース
マウスピース型矯正では、着脱式の装置を用います。マウスピースの装着時間は、自己管理しなければなりません。
発音
発音に与える影響は、3つの矯正装置で以下のような違いがあります。
表側装置
歯列の表側に装置が設置されているとはいえ、やはり発音障害が生じやすいです。多くのケースでは時間経過とともに慣れてきますが、マウスピース矯正ほど快適になることはありません。
舌側装置
舌側装置は、舌の動きを邪魔することが多く、3つの矯正装置の中では最も発音障害が現れやすいです。ただ、矯正装置を調整したり、装置の存在に慣れたりすることで、症状も徐々に改善されていきます。
マウスピース
マウスピースは、発音障害が最も起こりにくい矯正装置といえます。歯列にフィットする形状を呈しているだけでなく、厚みが0.5mm程度しかないため、発音を邪魔することもほとんどないのです。
適応症例の多さ
3つの矯正装置の適応範囲は、以下のような違いがあります。
表側装置
適応範囲が最も広い矯正装置です。ほとんどの歯並びに対応することが可能です。
舌側装置
表側装置ほど適応範囲が広くありません。複雑な歯の移動を要するような症例は、表側矯正の方が得意といえます。基本的には、ほとんどの症例に適応できます。
マウスピース
抜歯をして歯を大きく移動させる症例などには不向きです。具体的には、不足しているスペースを便宜抜歯で確保するようなケースです。
転院時の引継ぎのしやすさ
それぞれの矯正装置によって、転院時の引継ぎのしやすさは異なります。
表側装置
転院時の引継ぎは比較的行いやすいです。ただし、歯列不正の重症度が高かったり、歯科医師の技術力に差が合ったりする場合は、引き継ぎが難しくなります。
舌側装置
表側装置よりも引き継ぎが難しいです。舌側矯正自体、専門性が高い治療法なので、対応できない歯科医師も少なくありません。
マウスピース
マウスピース型矯正は、最も引き継ぎしやすい治療法です。例えば、インビザラインは矯正システムが統一されているので、対応している歯科医院であれば問題なく治療を継続できます。日本で最も普及しているマウスピース型矯正でもあるため、転院先を探すのも苦労しません。
まとめ
このように、ワイヤー矯正とマウスピース矯正には、それぞれ異なる利点と欠点があるため、どちらが優れているかは一概に論じることができません。治療を選択する際には、どういった項目を優先するのか、あらかじめ決めておきましょう。矯正の先生と相談しながら検討するのも良いです。
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(このコラムは歯科医師によって執筆・監修されています)
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長崎大学歯学部歯学科卒業