糖尿病でもインプラント治療はできる?リスク・注意点と成功させるポイントを解説
インプラント治療は、歯を失った際に選ばれることが多い治療法で、見た目の自然さや噛む力の回復が期待できます。そのため、入れ歯やブリッジに代わる治療法として注目されています。
しかし、糖尿病をお持ちの方の中には「自分もインプラント治療を受けられるのだろうか」「治療後にトラブルが起きやすいのでは」と不安を抱える方も少なくありません。実際、糖尿病とインプラント治療には深い関係があり、慎重な判断が必要です。
とはいえ、糖尿病だからといって必ずしも治療ができないわけではなく、適切な準備と管理によって成功させることも十分可能です。
この記事では、糖尿病とインプラント治療の関係、考慮すべきリスク、そして成功させるためのポイントについて詳しく解説していきます。
そもそも糖尿病ってどんな病気?
糖尿病は、血液中の糖(血糖)が慢性的に高くなる病気です。原因は生活習慣や遺伝で、食べすぎ・運動不足・肥満などが関係する2型糖尿病と、免疫の異常でインスリンを作れなくなる1型糖尿病が代表的です。
初期は症状が出にくいですが、進むと「のどの渇き」「頻尿」「体重減少」「疲れやすさ」などが現れます。血糖値が高い状態が続くと、網膜症や腎症、神経障害などの合併症や、心筋梗塞・脳卒中といった重大な病気のリスクも高まります。
さらに糖尿病は口腔内とも深く関係しており、特に歯周病が悪化しやすいのが特徴です。歯ぐきの炎症が進むと歯を失う原因になるだけでなく、炎症が血糖コントロールを難しくする「悪循環」にもつながります。
糖尿病でもインプラント治療を受けられる?
糖尿病の方でも、インプラント治療を受けることは可能です。
ただし、健康な方と比較すると、治療に伴うリスクが高くなる傾向があります。なぜなら、糖尿病によって免疫力や骨の再生能力などが低下しやすく、手術後の感染やインプラントの定着不良といった問題が起こりやすくなるからです。そのため、糖尿病の状態がコントロールされているかどうかが、治療の可否を判断する大きなポイントとなります。
特に注目すべきなのが、血糖値の指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値です。これが安定しているかどうかで、手術後の回復力や合併症のリスクが左右されます。一般的には、HbA1cが7.0%未満であれば、インプラント治療が可能とされています。
糖尿病であっても血糖値をしっかりコントロールできていれば、インプラント治療を受けることができるのです。
糖尿病の方がインプラント治療を受けるリスク
糖尿病を抱えている患者様がインプラント治療を受ける際には、いくつかの特有のリスクを伴います。これらを正しく理解し、適切な対策を講じることが、治療成功の鍵となります。
歯周病・感染症のリスクが高まる
糖尿病の影響で免疫機能が低下すると、口腔内における細菌の繁殖を抑えきれず、歯周病や術後の感染症のリスクが高まります。特にインプラント治療を受けた後は、歯ぐきや骨に炎症が起きやすく、治療部位が清潔に保たれていないと、インプラント周囲炎などの深刻な感染につながる恐れがあります。
血の流れが悪くなる
糖尿病によって血管が損傷すると、末梢まで十分な血液が行き渡りにくくなります。これにより、インプラントを埋め込んだ部位の血流が悪くなり、組織の再生や回復が遅れる原因になります。手術後の腫れや痛みが長引く場合もあり、予後に影響を及ぼす可能性があります。
骨が痩せやすくなる
糖尿病では骨の代謝バランスが崩れ、骨密度が低下しやすい傾向があります。インプラントはあごの骨にしっかりと固定される必要がありますが、骨が痩せていたり脆くなっていたりすると、インプラントが十分に安定しない場合があります。その場合、骨造成などの追加処置を行うことになります。
傷の治りが遅くなる
糖尿病は治癒能力にも影響を与えます。手術でできた傷が通常よりも治りにくく、治療期間が長引くことがあります。また、傷口が完全にふさがる前に細菌感染を起こすと、治療全体に悪影響を及ぼすリスクもあります。
インプラントの結合が妨げられる
インプラント治療では、人工歯根とあごの骨が結合するオッセオインテグレーションという過程が重要です。糖尿病の影響で骨の再生が遅れると、この結合がうまく進まず、インプラントがぐらついたり、最悪の場合には脱落したりすることもあります。
発作が起こる
糖尿病の管理が不十分な場合、手術中または術後に低血糖や高血糖による発作が起こる可能性があります。特に空腹のまま治療に臨むと、インスリンや内服薬の影響で血糖値が急激に低下する恐れがあります。スムーズに治療を進めるためには、術前に血糖値を確認し、必要に応じて医師の指導を仰ぐことが大切です。
糖尿病の方がインプラント治療を受ける際に注意すべきポイント
糖尿病の方がインプラント治療を成功させるには、治療前後の注意点をしっかりと押さえておくことが重要です。以下に、実際の治療において意識しておきたいポイントを紹介します。
糖尿病患者の治療実績がある医師を探す
糖尿病に理解があり、糖尿病を抱えている患者様へのインプラント治療経験が豊富な歯科医師を選ぶことは、成功率を高める上で非常に大切です。経験のある医師であれば、糖尿病特有のリスクを予測し、適切な処置や術後のケアを施すことができます。
血糖値を確認しておく
インプラント治療においては、血糖値のコントロールが非常に重要です。特に注目されるのがHbA1cの値で、これは過去1〜2か月の血糖値の平均を示す指標です。一般的に、インプラント治療を受ける際はHbA1cが7.0%未満であることが望ましいとされています。
これ以上の値の場合は、まず血糖コントロールを優先し、数値が安定してからインプラント治療に臨むのが基本です。自己判断せず、医師と相談の上で適切な時期を見極めましょう。
主治医・歯科医師と連携する
糖尿病を抱えている患者様がインプラント治療を受ける上で、内科の主治医と歯科医師との連携は欠かせません。双方に現在の血糖コントロール状況や服薬内容、インスリンの使用状況などを共有し、インプラント治療が問題ないかどうかを確認することが重要です。
発作に備える
糖尿病による低血糖や高血糖の発作に備えることも重要です。手術当日は、絶食の時間や服薬のタイミングによって血糖値が急激に変動する可能性があります。低血糖を防ぐためには、適切な食事のタイミングや甘い飲料・飴などの用意が効果的です。
また、万が一に備えて、治療を受ける歯科医院が緊急時の対応に慣れているかどうかも確認しておきましょう。
定期的なメンテナンス
糖尿病の方は免疫機能の低下や傷の治癒力の遅れなどから、インプラント周囲炎のリスクが高まる傾向があります。糖尿病の方がインプラント治療を成功させ、長期的に維持していくためには、治療後の定期的なメンテナンスが欠かせません。
メンテナンスでは、インプラント周囲の歯ぐきの状態や噛み合わせ、プラークの付着状況などがチェックされます。さらに、セルフケアが適切に行われているかどうかの確認も行われ、不十分な場合にはブラッシング指導が受けられます。また、糖尿病のコントロール状況についても、必要に応じて主治医との連携がなされることがあります。
通院の頻度は、患者様の口腔内の状態によって異なりますが、一般的には3か月から6か月に1度のペースが推奨されています。血糖のコントロールが不安定な方は、より短い間隔でメンテナンスを受けるとよいでしょう。こうした継続的なフォローアップが、インプラントの寿命を延ばし、全身の健康にも良い影響をもたらすのです。
まとめ
糖尿病を抱えている方でも、血糖値を管理したり主治医・歯科医師と連携を取ったりすれば、インプラント治療を受けることは可能です。確かに、糖尿病による感染症や骨の再生能力の低下など、いくつかのリスクは存在しますが、それらを理解したうえで対策を講じれば、治療の成功率は高めることができます。
何より大切なのは、自己判断を避け、信頼できる歯科医師や主治医と協力しながら進めることです。糖尿病だからといって、インプラント治療をあきらめる必要はありません。むしろ、口腔内の健康を保つことが血糖値の安定にもつながるため、前向きに検討する価値があると言えるでしょう。
※糖尿病を抱えた方のインプラント治療にはリスクが伴います。必ず歯科医師・主治医に相談してから治療を始めましょう。
歯科医院の上手な選び方については「インプラント治療はどこで受ける?良い歯科医院の特徴と選び方」で詳しく解説しています。ぜひこちらもご覧ください。