持病があってもインプラントは受けられる?受けられない場合の解決策も紹介
インプラントは、失った歯を補う治療法の中でも見た目や噛み心地が自然で、近年ますます注目されています。特に、高齢化が進む現代では、糖尿病や高血圧といった慢性的な病気を抱えながらもQOL(生活の質)を高める治療としてインプラントを検討する人が増えています。
とはいえ、「持病があるけれどインプラント治療を受けられるのかな?」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、持病があってもインプラントが可能なケースや注意点、治療が難しい場合の対処法についてわかりやすく解説します。
持病があってもインプラントは受けられるの?
結論から言えば、持病があるからといって、必ずしもインプラント治療が受けられないわけではありません。現在では医療技術の進歩により、持病を抱えている方でもインプラントを受けられるケースが増えてきています。
ただし、持病の種類やその重症度、コントロールの状況によっては、治療に慎重な判断が求められます。 例えば、糖尿病や高血圧といった疾患は、インプラント手術後の治癒に影響を与える可能性があるため、主治医との連携が不可欠です。
また、心疾患や腎疾患、骨代謝に関わる病気などは、使用している薬剤や全身の状態によって、インプラント治療が適応できない場合もあります。
そのような場合でも、必要な検査や処置を行うことで、インプラント治療が可能になるケースもあります。実際に、多くの歯科医院では、内科や他科の医師と連携しながら、患者様の健康状態に合わせた治療計画を立てています。
大切なのは、自分の病気について正確に申告し、主治医・歯科医師と十分に相談した上で治療を進めることです。
インプラント治療が受けられない可能性のある持病10選
ここでは、インプラント治療が受けられない、もしくは受ける際に注意が必要な持病を10種類紹介します。
持病があるからといってすべてが治療の妨げになるわけではありませんが、治療の成否に関わる重要な要素となるため、それぞれの病気について理解しておくことが大切です。
糖尿病
糖尿病は、インプラント治療において特に注意が必要な病気の一つです。血糖値が高い状態が続くと傷の治りが遅くなり、手術後の感染のおそれが高まるため、インプラントの定着がうまくいかないことがあります。
しかし、糖尿病を患っている方でも、適切なコントロールがなされていればインプラント治療を受けられる場合があります。治療前にはHbA1c値などの血糖指標をチェックし、主治医と連携を取りながらインプラント治療を検討するようにしましょう。
※糖尿病とインプラントの関係については「糖尿病でもインプラント治療はできる?リスク・注意点と成功させるポイントを解説」で詳しく解説しています。
骨粗しょう症・骨代謝疾患
骨粗しょう症は、骨密度が低下し、骨がもろくなる病気です。インプラントは顎の骨に人工歯根を埋め込む治療であるため、骨量や骨質は非常に重要な要素となります。骨粗しょう症の方は、骨との結合がうまくいかず、インプラントが安定しない可能性が高くなります。
また、ビスフォスフォネート系薬剤など骨代謝に影響を与える薬を長期間服用している場合、まれに顎骨のトラブルを生じることがあるため、服薬状況を歯科医師に伝えることが大切です。
がん
がんそのものがインプラント治療を妨げるわけではありませんが、治療中または治療後間もない場合は注意が必要です。また、頭頸部に放射線治療を行った場合には、骨の治癒力が著しく低下するため、インプラントが適応できないこともあります。
がん治療が落ち着いていて、全身状態が安定していれば、インプラント治療を受けられる可能性があります。インプラント治療を受ける場合は、タイミングや体調を見極めることが重要です。
自己免疫疾患(リウマチ)
関節リウマチなどの自己免疫疾患は、免疫システムが自分の体を攻撃することで炎症や痛みを引き起こす病気です。これらの病気の治療で使用される免疫抑制剤やステロイド薬は、感染の可能性を高めたり骨の再生能力を低下させたりすることがあります。
インプラント治療では骨とインプラントの結合が必要となるため、リウマチの進行度や服薬内容を考慮し、慎重に判断する必要があります。適切な管理下であれば治療可能な場合もあり、医師との連携が鍵となります。
心疾患
心臓病を抱える方は、インプラント治療中に体への負担がかかることで、血圧や心拍数に影響を与えるおそれがあります。狭心症や心筋梗塞の既往がある場合は、治療の前に心臓の状態をしっかりと評価することが必要です。
また、抗血栓薬を服用している場合は、手術時の出血が増える可能性があるため、投薬の調整が必要になることもあります。心疾患があっても、主治医と連携して管理を行えば、治療は可能なことが多いです。
腎疾患
慢性腎不全などの腎疾患を抱える方は、免疫機能の低下や出血傾向が見られることがあり、インプラント手術に影響を及ぼす可能性があります。特に透析を受けている場合には、治療の日程や薬剤の影響を加味した慎重な対応が必要です。
また、腎機能が低下していると、使用できる薬剤にも制限があるため、事前に歯科医師へ病状を詳細に伝えることが重要です。インプラント治療を受ける場合は、体調を見ながら慎重に進めるようにしましょう。
肝疾患
肝炎や肝硬変などの肝疾患を持つ方は、血液の凝固機能が低下していることが多く、インプラント手術の際に出血する恐れがあります。特に、重度の肝機能障害がある場合には、治療が難しいケースもあります。
さらに、肝臓は薬の代謝にも関わっているため、処方薬が体内に蓄積しやすくなることにも注意が必要です。治療を受ける前には血液検査などを行い、歯科医師と主治医が協議しながら方針を決定します。
甲状腺疾患
甲状腺の病気には、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)や橋本病(甲状腺機能低下症)などがあります。これらの疾患は、代謝に影響を及ぼすため、全身の健康状態に注意しながら治療を行う必要があります。
適切な治療を受けて甲状腺疾患が安定していれば、インプラント治療を受けることは可能とされています。ただし、薬剤による影響や骨代謝との関係性を考慮し、事前に歯科医師と病状を共有することが求められます。
血液疾患
血液疾患には、貧血、白血病、血友病などさまざまな種類がありますが、いずれもインプラント治療には慎重な判断が必要です。特に、出血傾向のある病気では、手術中や術後の止血が困難になる可能性があります。 また、白血病などで免疫力が低下している場合は、感染症にかかる可能性も高くなるため、治療は見送られることが多いです。
ただし、軽度の貧血であれば治療は可能なこともあり、血液内科との連携を取りながら安全に進めることが大切です。
高血圧
高血圧は多くの人が抱える生活習慣病の一つですが、血圧がコントロールされていれば、医師の判断のもとで治療を進められる場合があります。ただし、コントロールが不十分な場合には、治療中のストレスや緊張によって血圧が急上昇し、脳卒中や心臓発作が起こる可能性があります。
また、高血圧治療に使われる薬の中には、唾液の分泌が減る副作用を持つものもあり、口腔内環境の悪化につながることがあります。歯科医師に現在の血圧状況や薬について正しく伝えた上で治療計画を立てることが重要です。
持病以外で注意すべきケース
インプラント治療の可否を左右するのは持病だけではありません。口腔内の状態や生活習慣、服薬状況など、さまざまな要因によって治療に支障が出る場合があります。
ここでは、インプラント治療に影響を及ぼす持病以外の代表的な注意点を解説します。
口腔内の状態が良くない
インプラント治療を成功させるには、土台となる口腔内の環境が良好であることが前提です。特に、歯周病が進行している場合や、口内に慢性的な炎症がある場合には、インプラントがうまく骨と結合せず脱落するおそれがあります。
また、プラーク(歯垢)や歯石の蓄積が多い状態で手術を行うと、感染の原因となり治癒が遅れる可能性があります。そのため、事前に歯周病治療や口腔内クリーニングを徹底し、清潔な環境を整えておくことが必要です。
骨量が少ない
顎の骨の量が十分でないとインプラントが安定しにくく、治療が難しくなる可能性があります。骨が少なくなる原因には、加齢や歯周病、歯の欠損期間が長いことなどが挙げられます。
しかし近年では、骨造成手術により骨量を補うことができるようになりました。骨量の状態はレントゲンやCT検査などで確認できますので、不安がある方は事前に相談しておくとよいでしょう。
喫煙習慣がある
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、手術部位への血流を妨げるため、治癒の遅延やインプラントの脱落につながることがあります。
また、喫煙は歯周病の悪化を引き起こすこともあり、インプラント周囲炎の発症率が高くなる傾向があります。そのため、多くの歯科医師は、インプラント治療を検討する際には禁煙を強く勧めています。
妊娠している
妊娠中の方は、インプラント治療を延期することが推奨されています。妊娠中はホルモンバランスの変化によって歯ぐきが腫れやすくなったり免疫力が弱まったりすることがあるためです。
さらに、インプラント治療ではレントゲン撮影や外科的処置が必要なため、胎児への影響を考慮し、安全性を最優先に判断されます。出産後、体調が安定してから改めて治療を検討するのが一般的です。
特定の薬を服用している
日常的に服用している薬の種類によっては、インプラント治療に影響を及ぼすことがあります。例えば、抗凝固薬は手術時に出血する可能性を高めるため、投与スケジュールの調整が必要になることがあります。
服薬状況については、必ず歯科医師に正確に伝え、必要であれば主治医との連携を図ることが重要です。
インプラント治療が難しい場合の対処法
持病や口腔内の状態、生活習慣などによって、インプラント治療が難しいと判断された場合でも、必ずしも諦める必要はありません。現在では、さまざまな代替手段や補助的な治療法が存在します。ここでは、インプラントが困難なケースにおける現実的な対処法を2つご紹介します。
骨造成手術を受ける
インプラント治療が困難となる理由の1つに顎の骨量不足があります。このような場合には「骨造成手術」という処置を行うことで、インプラント治療が可能になる場合があります。
骨造成手術には、サイナスリフトやソケットリフト、GBR法(骨誘導再生法)などの種類があり、失われた骨の部分に人工骨や自家骨を移植して骨量を補います。これにより、インプラントを安定させるために必要な土台が確保されるのです。
骨造成手術は高度な技術を要するため、経験豊富な歯科医師のもとで行うことが重要です。また、骨が安定するまで数か月の治癒期間が必要となるため、治療期間が長引くことも理解しておきましょう。
入れ歯やブリッジを検討する
インプラント治療が難しいと判断された場合でも、入れ歯やブリッジといった選択肢があります。これらはインプラントにと比べて手術の負担が少なく、持病を抱えている方や高齢の方でも対応しやすいといわれています。
入れ歯は取り外しが可能な一方、毎日のお手入れや装着感の慣れが必要です。ブリッジは両隣の歯を支えにして人工歯を固定する方法です。ただし、健康な歯を削る必要があります。
それぞれのメリットとデメリットを理解したうえで選択することが重要です。歯科医師と相談し、自分に合った方法を見つけましょう。
まとめ
持病があるからといって、必ずしもインプラント治療を諦める必要はありません。糖尿病や高血圧、心疾患などを抱えていても、症状が安定していれば、治療を受けられるケースも数多くあります。
また、骨造成手術の併用や、入れ歯・ブリッジといった代替治療も選択肢として検討できます。大切なのは、自分の体の状態を正しく把握し、信頼できる医師と相談しながら治療を進めることです。
※本記事の内容は一般的な医療情報をもとにしたものです。実際の治療可否は、症状や全身状態によって異なりますので、必ず歯科医師・主治医にご相談ください。