歯磨きの理想の時間は? 長すぎる歯磨きは危険なことも
「歯磨きはどのくらいの時間をかけるのがベストなのか」という疑問をお持ちの方に、理想的な歯磨きの時間やタイミングの目安をお伝えしていきます。あわせて正しく磨くためのポイントや“磨きすぎ”による注意点、歯が磨けないときの対処法についても解説していきます。
お口のトラブルを防ぐうえで“歯磨き”が欠かせないことは知っていても、歯磨きにどの程度の時間をかければいいのか疑問に思う方も少なくないでしょう。歯磨きはきちんと磨こうとするとそれなりの時間がかかる一方で、時間をかけて磨くことにこだわりすぎると、思わぬ落とし穴にはまるおそれもあるため注意が必要です。
ここでは歯磨きに理想的な時間やタイミング、さらに歯磨きをする際の注意点などをご紹介していきます。
歯磨きにかける時間と注意点
歯磨きにかける時間はお口の大きさや歯の本数、歯並びなどによって異なります。以下にその平均的な目安や磨き方のポイントを解説しますので、毎日のケアの参考にしてみてください。
「朝3分・昼3分・夜10分」を目安にする
お口の中を隅々まできれいに磨くとなると、歯磨きには次にご紹介する“補助清掃器具”の使用も含め10〜15分ほどの時間を要します。朝・昼・晩のそれぞれにこのぐらいの時間がかけられると理想的ですが、難しい場合は朝と昼は3分ぐらいを目処にし、夜の歯磨きに時間を長めにとるようにします。
寝ている間は唾液の量が減少し、口内に細菌が増殖しやすくなるため、夜の歯磨きは1日のなかでもとくに念入りに、時間をかけてていねいにおこないましょう。
なお、歯磨きの時間をできるだけ短くしたい場合は、電動歯ブラシの使用もおすすめです。手用の歯ブラシよりも効率よく歯が磨けるため、歯磨きの時間が短縮できます。
歯ブラシで磨いた後は補助清掃器具を使う
歯磨きの主要ツールといえば「歯ブラシ」ですが、単独で落とせる汚れはお口全体に付着した汚れの6割程度といわれています。そこで日々の歯磨きでは、歯ブラシにデンタルフロスや歯間ブラシなどの補助清掃器具を併用し、磨き残しを減らしていくことが重要となります。これらのツールは1日1回、就寝前の使用がおすすめです。
「磨く時間」よりも「正しく磨けているか」を意識する
歯磨きにいくら長く時間をかけても、同じところばかりを磨いたり、歯間清掃をおろそかにしたりすると、磨き残した部分が虫歯や歯周病になってしまいます。しっかり磨くことにまだ慣れない時期は、磨く時間よりも正しく磨くことに意識を向けるように心がけてください。
はじめにていねいに磨くことを身につけておけば、そのうち磨くコツがわかるようになり、短い時間でも効率よく磨けるようになります。最初は時間がかかっても、手を抜かずに正しく磨いていきましょう。
磨きすぎにも要注意
■エナメル質が削れる
「薬も過ぎれば毒となる」というように、歯磨きもやりすぎると歯を傷めてしまうため注意が必要です。歯の表面は水晶ほどの硬さのエナメル質で覆われてしますが、歯ブラシが過度に当たりすぎると目には見えない傷ができたり、表面が削れたりしてしまいます。したがって、歯磨きはここで述べる時間や回数に留意し、必要以上に長く磨きすぎないようにしましょう。
■歯ぐきを傷つけてしまう
歯ぐきは柔らかくデリケートな組織であるため、磨きすぎると歯と同様に表面が傷つき、歯ぐきの腫れや出血の原因になります。また、歯ぐきにブラッシングによる過度な刺激が加わると、歯ぐきが痩せて「歯が長く見える」「冷たいものがしみる」といった症状を引き起こします。歯と歯ぐきの境目を磨く際は、軽い力で優しく磨くよう心がけてください。
歯磨きするタイミングはいつ?
歯磨きは朝・昼・晩の「毎食後」と「起床時」が理想的なタイミングといわれています。この4回の歯磨きが難しい場合でも、朝と晩の1日2回は必ず磨くように心がけましょう。
食べた後は「30分以内」に磨くのが理想的
毎食後の歯磨きは「食後30分以内」を目安におこないます。食後は食べ物に含まれる糖分を原料に口内の細菌が“酸”をつくり、一時的にお口の中が酸性に傾きます。この酸性の状態が長く続くほど、歯の表面にあるエナメル質が溶けやすくなり、虫歯の発症へとつながっていきます。酸の原料となる食べカス(糖分)と、それを作る細菌を減らすためにも、食後は30分以内に歯を磨くようにしましょう。
食事直後に磨くのはNG?
食後の歯磨きのタイミングについては「食後30分以内」が推奨される一方で、一部の媒体などで「食べた直後に磨くのは歯によくない」という話を耳にすることがあります。(※1)
しかし、これは炭酸飲料など酸性の食品を飲食した際におこる「酸蝕症」に関する研究データを元にした説であり、そうではない一般的な食事の後の歯磨きに当てはまるものではありません。歯磨きをする目的のひとつが「口内が酸性になるのを抑える」という点をふまえると、食後はできるだけ早めに歯を磨いておいたほうが賢明でしょう。
ただし「食後30分以内」も必ず守らなければならないということではなく、30分以内に磨けない場合は、ほかのタイミングを見つけて歯を磨くことが大切です。歯磨きで重要なのは「毎日続けること」ですので、自身の生活スタイルに合うタイミングで磨いてきましょう
※1: 「食後30分間、ブラッシングを避けることの是非」(日本口腔衛生学会)
▶歯磨きする正しいタイミングとその理由を知りたい方は「食事直後の歯磨きはNG⁉ 歯磨きの正しいタイミングと回数は?」の記事をご覧ください。
歯磨きができないときはどうしたらいい?
仕事や外出など、歯磨きができない場合でも、以下にご紹介する方法でできるだけお口の中に食べカスなどの汚れがたまらないよう工夫しましょう。ただし、以下の方法では細菌の住みかであるプラークは取り除けないため、空いた時間に必ず歯を磨くようにしてください。
うがい(マウスウォッシュ)をする
食後に歯磨きができない場合は、うがいをして口内の食べカスを洗い落としていきます。この際、水に勢いをつけて歯面にたたきつけるように洗い流すのがポイントです。また、頬と歯、唇と歯の間にも水を行き渡らせて、すき間にたまった食べカスを取り除いていきましょう。
さらに、うがいの際はマウスウォッシュ(洗口液)を使うと、洗浄効果がUPします。殺菌成分を含むマウスウォッシュは細菌の増殖を抑える効果が期待できるほか、ミントなどの香料でお口の中にすっきりとした爽快感が残ります。口臭予防にもおすすめです。
食後にお茶や水を飲む
歯磨きやうがいが難しい場合は、食後にお茶や水を飲むなどして口内に食べカスが停滞するのを防いでいきましょう。ただし、糖分の多い飲料は虫歯の原因になるため、糖分を含まない「ノンシュガー」のものを飲むようにしてください。
キシリトール(ノンシュガー)のガムを噛む
ガムを噛むと唾液の分泌がうながされ、食べカスなどの汚れもたまりにくくなります。おすすめはキシリトールガムに代表される糖分を含まない(ノンシュガー)のガムです。キシリトールは砂糖と同じ甘さを持ちながら、細菌が酸をつくらない甘味料として知られています。ただし、キシリトールガムの中にはほかの糖分を含む製品もあるため、パッケージの成分表に「ノンシュガー」「糖分0」と記載されているかよく確認しましょう。
歯磨きの時間よりも大切なこと
歯磨きは「時間」もさることながら、「歯磨きをおこなうタイミング」や「正しく磨くこと」も重要なポイントになります。
歯磨きは「時間」と「タイミング」をセット考える
歯磨きはまず1日のうちに「どのタイミングで磨くか」を決め、次に「そのうちどのタイミングに時間をかけるか」を考えてみましょう。
ある習慣を生活の中に定着させるためには、その習慣を同じリズムで繰り返しおこなうことが重要です。たとえば「帰ったら手を洗う」という行為も、それが毎日同じリズムで繰り返されるうちに「洗わない」ということに違和感を覚え、やがて生活の一部として定着していきます。
歯磨きも同様に「毎日同じタイミングで磨くこと」を心がけるうちに、それが1日の生活リズムの中に自然と組み込まれていきます。ていねいに時間をかけることも大切ですが、まずは長く続けられることを意識していきましょう。
歯科医院で「歯磨き指導」を受けてみる
正しい歯磨きを身につけるためには、”歯磨きの専門家”である歯科医師・歯科衛生士のアドバイスを受けることも大切です。
歯磨きには“磨きグセ”というものがあり、自身ではしっかり磨いているようでも磨けていないポイントがいくつか存在します。この磨きグセを自覚するのは難しく、気づかぬうちに虫歯や歯周病が進行しているケースも実は少なくありません。このような事態にならないためにも、歯科医院で一度「歯磨き指導」を受けておきましょう。
まとめ
歯の本数が少ない人は多い人よりも短い時間で歯が磨けるように、歯磨きにかかる時間は個々のお口の状態によって異なります。今回ご紹介した歯磨きの時間もあくまで平均的な目安ですので、まずは「正しく磨くこと」に重点を置きながら、効率を上げる方法を探ってみてください。また、歯磨きは「時間」と「タイミング」の双方に考慮し、自身の生活の中で無理なく続けられる習慣として定着させていきましょう。
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【コラム執筆・監修者の紹介】
影向 美樹
歯科医師免許取得後、横浜・京都の歯科医院にて10年ほど歯科医として勤務。現在は歯科分野を中心とした医療系Webライターとして活動中。