食事直後の歯磨きはNG⁉ 歯磨きの正しいタイミングと回数は?
歯磨きは朝・昼・晩の食後と起床時の4回が、効果をあげる理想的な回数であることと、その理由について解説していきます。また「食後何分以内がベストか」「夜はいつ磨けばよいのか」といった細かいタイミングや、歯を磨けないときの対処法についても言及していきます。
虫歯や歯周病の予防の基本となる歯磨きには、その効果を高める理想的なタイミングや回数があります。今回は「歯磨きって1日何回? いつするのがベストなの?」という疑問をお持ちの方に、おすすめの回数やタイミング、またその理由などを詳しくご紹介していきましょう。
歯磨きは「毎食後」におこなうのが理想的
「食べたら歯を磨く」というのを、幼いころから日常生活の常識として教え込まれてきた方も多いと思います。確かに歯磨きは毎食後におこなうのが理想的ですが、それは単に「お口の中にたまった食べカスを取るため」という以外にもっと深い理由があります。
食後に歯磨きをおこなう理由
食後の歯磨きには、虫歯の原因となる「酸」や細菌の塊である「プラーク」の形成を抑える効果があります。
私たちが食事をすると、お口の中ではある種の細菌が食べカスに含まれる糖分から酸を作りだし、口内は一時的に”酸性“に傾きます。一方で、ミネラルを主成分とする歯のエナメル質は酸に弱く、酸性の状態が長く続くと表面から溶けだしてしまい、やがて虫歯へと発展していきます。食後の歯磨きには酸の原料となる「糖分」と、それを作り出す「細菌」を取り除く効果があり、これにより口内が酸性になるのを抑え、虫歯になるのを防ぐことができます。
また、これらの細菌は糖分から酸のほかにも「不溶性グルカン」という物質を作り出します。不溶性グルカンは虫歯菌や歯周病菌の住みかとなる「プラーク」の形成のもととなるもので、粘り気のある成分によって細菌同士の結束を強くしていきます。プラークができはじめるころは細菌同士の結束もまだ弱いため、歯ブラシで容易に落とすことが可能です。
しかし、結束が強くなり「バイオフィルム」という強力な膜を張りだすと通常の歯磨きでは落とせなくなります。食後の歯磨きを習慣づけておくと、プラークの形成を抑えられるとともに、プラークを成熟する前に取り除くことで虫歯や歯周病になりにくい口内環境に整えることができます。
食事直後の歯磨きは「酸蝕症」のリスクがあるって本当?
一部のメディアやネットなどで「食べた直後(30分以内)に歯磨きはしないほうがいい」という情報を目にすることがあります。これは「食後に口内が酸性に傾いた状態のまま歯を磨いてしまうと、酸に弱い歯にダメージを与える」というものです。(※1、※2)
この情報は、炭酸飲料に象牙質の試験片を浸し、口内に戻して歯磨きをおこなった実際の研究結果がその根拠となっています。ただし、これは「酸蝕症」という虫歯とはメカニズムが異なる病気の研究報告であり、私たちが普段おこなう歯磨きにそのまま当てはめるのは適切ではありません。国内の学会でも、「食後30分以内の歯磨きは避けるべき」という情報は正確性に欠け、酸性の飲食物によって生じる酸蝕症に限られたものだと結論づけています。
したがって、通常の食事であれば、歯磨きは「食後30分以内」におこなうのがベストです。炭酸飲料や乳製品など酸性の飲食物を摂取した場合には、直後の歯磨きを避けるか、もしくは先によくうがいをしてから歯磨きをおこなうとよいでしょう。
※1: 「食後の歯磨きについて」(日本小児歯科学会)
※2:「食後30分、ブラッシングを避けることの是非」日本口腔衛生学会
「朝食後」「夕食後」「間食後」歯磨きのタイミングは?
「食後30分以内が理想」とはいえ、忙しいスケジュールのなかで、それを徹底するのはなかなか難しいと思われる方も多いでしょう。また、歯磨きのタイミングについては、専門家の中でも意見が分かれるところです。
ただ、歯磨きで大切なのは「毎日続けておこなうこと」ですから、自身のライフスタイルのなかで無理のないタイミングを選ぶことこそ、長く続ける秘訣といえます。ここではそのタイミングの選び方のポイントについてご紹介していきます。
「寝起き派」と「朝食後派」 理想的なのはどっち?
朝の歯磨きで度々議論を呼ぶのが、「起きた直後に磨く」のか「朝食を食べた後に磨く」のかという点です。実はこれも専門家によって意見が分かれるポイントですが、理想をいえば「どちらも磨くべき」というのが正しいでしょう。
「寝起き派」の意見は、1日の中でお口の中に細菌がもっとも多いのが起床時であるため、起きたらすぐに磨くべきというというものです。寝ている間は唾液の分泌が減少するため、口内に細菌が繁殖しやすく、寝起きのネバツキや口臭の原因にもなります。
また、そのまま朝食を食べると、口内の細菌がそのまま体内に入り込むため、これらを避けるためにも起床してすぐに歯を磨くほうがよいといえます。
一方で、「朝食後派」の意見は、食後は食べカスに含まれる糖分から細菌が酸を産出するため、口内を酸性にしないためにも食後に磨いたほうがよいというものです。両者の意見はいずれも理論的に正しいため、可能であるならば朝は「寝起き」と「朝食後」の2回とも歯を磨くのが理想的でしょう。
ただ、現実的に朝2回も歯を磨くのは難しいという場合は、「一方をうがいにする」もしくは「一方はササッと、一方はしっかり」でも構いません。いずれにしろ朝は最低でも1回はしっかり磨いておきたいタイミングなので、無理のない方法で続けられるよう工夫しましょう。
「夕食から就寝まで」はいつ磨くのが正解?
夕食後から就寝前まで飲食をしないのであれば、夕食後30分以内を目安に歯磨きをおこなうのが基本です。一方で夕食後もテレビを観ながらデザートやアルコールなどを楽しみたい方や、バスタイムにゆっくり歯磨きをしたい方など、夜の過ごし方は人それぞれで異なります。したがって、夜は歯磨きをする“時間”にはあまりこだわらずに、「寝る前に必ず磨くこと」を重視しましょう。
寝る前は1日の中でもっとも念入りに歯磨きをおこないたいタイミングです。就寝中は唾液の分泌量が減少するため、お口の中で細菌が繁殖しやすく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。寝る前は必ず歯を磨き、朝・昼よりもしっかり時間をかけ、ていねいにおこなうよう心がけましょう。
間食後の歯磨きについて
「食べたら磨く」の原則からいえば間食後も歯を磨くのが理想的といえますが、ただ歯磨きも回数が多くなると歯へのダメージが大きくなります。したがって、あまり神経質にならず、間食後は食べカスがお口に残らないように「お茶を飲む」「水でうがいをする」などし、朝・昼・晩の食後の歯磨きを徹底しましょう。
歯磨きの回数は1日2回? それとも3回?
歯磨きにベストなタイミングばかりを重視すると、人によっては1日に4回も5回も磨かなければならないということにもなりかねません。しかし「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉の通り、歯磨きもやりすぎると歯や歯ぐきを傷めてしまいます。歯磨きは多くても1日4回(朝2回・昼1回・夜1回)までにとどめておきましょう。
最低でも「1日2回」は歯を磨く
毎日忙しくて1日に何度も歯を磨けないという場合でも、1日のうち最低でも朝・晩の2回は歯を磨くようにしましょう。朝はお口の中にもっとも細菌が多い時間帯なので、歯磨きをしないまま外出すると口臭の原因にもなります。また、虫歯や歯周病のリスクが高まる就寝の時間帯に備え、寝る前にもしっかり歯を磨いておきましょう。
歯磨きの回数は食べ物によって変えるべき?
歯磨きの回数は「何を食べたか」に関係なく、所定の回数を決められた時間におこなうのが基本ですので、食べ物の種類によって回数を変える必要はありません。ただ脂っこいものやニオイの強い食べ物を食べた後などには、歯磨きによって口内をリフレッシュする効果が期待できます。また、生活が不規則な場合は朝・昼・晩にこだわらず、「寝る前」と「起きた後」の歯磨きを徹底するように心がけてください。
食後に歯磨きができないときは
「時間がない」「出先で歯ブラシを持っていない」など、歯磨きがしたくてもできないシーンは数多くあります。そのような場合には、以下のような方法を参考に口内をできるだけ清潔に保つようにしましょう。
適切なタイミングで歯磨きができないとき
歯磨きをするタイミングはあくまで目安ですので、そのタイミングをもし逃しても神経質にならず、別のタイミングで歯磨きをおこないましょう。朝が忙しくて歯を磨けなかった場合には、昼までの空いた時間、もしくは昼食後に磨いても問題ありません。また、歯を磨かないままうっかり寝てしまった場合には、起きたときに念入りに歯を磨きましょう。
■「うがい」と「すすぐだけ」正しいのはどっち?
歯を磨けない場合には、うがいをして汚れを洗いながすだけでも、お口の中をある程度は清潔に保つことができます。ただし水をお口に含んで出すだけの「すすぎ洗い」では、汚れがお口に残ってしまいます。
おすすめは少量(20~30ml)の水でお口の中に強い水流を作る「クチュクチュうがい」です。頬や舌を使いながら歯面や歯ぐきに水を勢いよくぶつけ、すき間にたまった食べカスを洗い流していきます。これを4〜5回ほど繰り返すと、お口の中がスッキリします。
■水やお茶を飲むのは有効?
歯磨きやうがいができないときは、食後に水やお茶を飲んでお口の中に汚れが溜まらないようにするのも有効です。ただし、糖分を含む飲み物は口内に細菌を繁殖させてしまうため、必ず糖分を含まないものを飲むようにしましょう。
“食前”の歯磨きも効果はある?
先にも述べたように、朝の歯磨きについては食前におこなうと「就寝中に増殖した細菌を落とす」という効果があります。それ以外の時間帯(昼・夜)についても、食前の歯磨きが「効果がない」とまでは断言できません。
たとえば、高齢者や寝たきりの方で嚥下機能(飲み込む機能)が低下している場合、食前に口内を清潔にすることは誤嚥性肺炎の予防につながります。もし「食前にしか歯を磨けない」という場合でも、磨かないよりは磨いておくほうが一定の効果は見込めます。ここでも、歯磨きの基本は「食後30分以内」であることは心に留めておきましょう。
まとめ
歯磨きにはそれに最適なタイミングや回数がありますが、まずは個々のライフスタイルに応じて無理なく続けられることが肝心です。上記はあくまで目安ですので、自分で実践しやすい回数やタイミングを見つけいきましょう。ただし忙しい毎日でも、「起きたとき」と「寝る前」の1日2回は歯を磨くよう心がけてください。
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■予防歯科の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/yobotiryo-interview
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【コラム執筆・監修者の紹介】
影向 美樹
歯科医師免許取得後、横浜・京都の歯科医院にて10年ほど歯科医として勤務。現在は歯科分野を中心とした医療系Webライターとして活動中。