プラークコントロールって?プラークと歯石の違いからその方法まで解説
歯医者さんや歯磨き剤のCMなどでよく耳にする「プラークコントロール」という言葉。おそらく多くの方は“プラークコントロール=歯磨きのこと”と認識されていると思います。
ただあくまで歯磨きはプラークコントロールの手段の1つにすぎず、プラークコントロールにはほかにもさまざまな取り組み方があることはあまり知られていないようです。
そこで今回はプラークコントロールとはどのようなことを意味するのか、またその具体的な方法や虫歯・歯周病予防における効果などをご紹介いきます。
プラークコントロールとは
たとえば1日歯を磨かなかった場合、歯面を舌で触れるとザラザラする感じがします。次にそのザラつきを鏡で見てみると、歯の表面に白くてネバネバした付着物を確認することできます。
この付着物が「プラーク」と呼ばれる細菌の集合体で、プラークコントロールとはこのプラークを口内から可能な限り取り除く取り組み全体を意味します。
プラーク(歯垢)とは
プラークは1g当たりに約1,000億個の細菌からなる集合体で、これを構成する細菌は500種類以上にも及ぶといわれています。
その中には虫歯や歯周病、さらには口臭の原因となる細菌も含まれており、お口にまつわるトラブルの多くはこのプラークが元凶となっています。
“プラーク(歯垢)”と“歯石”の違い
歯面に付着する汚れにはプラークのほかに、「歯石」と呼ばれる白くて硬い付着物があります。
この歯石はプラークが唾液中のカルシウムやリンが結合して石灰化したものです。プラークは歯面に何もついてない状態から食後8時間程度で形成されますが、そのプラークがさらに2週間以上放置されると歯石へと変化していきます。
ただプラークとは異なり、歯石はそれ自体が虫歯や歯周病の直接的な原因になることはありません。
またプラークは歯ブラシなどのセルフケアグッズで取り除くことができますが、歯石になってしまうと歯ブラシでは落とせず、歯科医院での専門的なクリーニングが必要となります。
なぜプラークコントロールが必要?
先述にあるように、虫歯や歯周病の原因菌はプラークの中で生息するため、これらの病気を予防するうえでは歯面に付着したプラークを取り除いてしまうことが一番の近道となります。
しかしプラークは一度取り除いても、食後8時間後には新たなプラークが形成されてしまうため、口内にプラークがまったくない状態を維持することはできません。
したがって一定の時間ごとにプラークを取り除き、できるかぎりその量を減らしていく「プラークコントロール」が、虫歯・歯周病の予防で最も効果的な方法となるわけです。
また歯周病におけるプラークコンロールは病気の予防だけでなく、治療の一環としても位置づけられています。歯周病治療では、その原因となる歯周病菌を口内からいかに減らすかが治療の成否を左右するといっても過言ではありません。
いかに専門的な治療をおこなっても、プラークコントロールが不十分なままではその成果は上がらず、また一時的に改善がみられたとしてもすぐに病気が再発してしまいます。
そのため最初におこなう歯周基本治療では、プラークコントロールが治療項目の1つに含まれています。
プラークコントロールの方法
プラークコントロールにはご家庭で毎日おこなう「セルフケア」と、歯科医院で定期的におこなう「プロフェッショナルケア」の2つの方法があります。プラークコントロールの効果を安定させるためには、この2つのケアを両立させることが肝心です。ではその具体的な方法を以下にご紹介していきましょう。
ご家庭でおこなうプラークコントロール(セルフケア)
■歯ブラシによる歯面清掃(歯磨き)
プラークコントロールの基本中の基本といえば、歯ブラシを使った歯面清掃です。口内の細菌は食べカスに含まれる糖分をエサに増殖し、そこから新たなプラークを形成していきます。したがってプラークを増やさないためには、毎食後のブラッシングを習慣づけることが大切です。
▶歯磨きの理想のタイミングの詳細は「歯磨きの理想の時間は? 長すぎる歯磨きは危険なことも」の記事をご確認ください。
■デンタルフロス・歯間ブラシによる歯間清掃
ご家庭でのプラークコントロールを徹底するうえでは、歯ブラシにくわえデンタルフロスや歯間ブラシに代表される歯間クリーナーも必須アイテムとなります。歯ブラシでは落とせない細かいすき間については、1日1回、就寝前の歯間清掃を習慣づけましょう。
■デンタルリンスによる洗口(うがい)
殺菌成分を含むデンタルリンスを使った洗口(うがい)は、歯磨きをした後にプラークの再付着を抑える効果が期待できます。ただし“うがい”そのものにプラークを取り除く効果はないため、あくまで歯磨きの補助的なものとして活用していきましょう。
歯科医院でのプロフェッショナルケア
■PMTC
PMTC(プロフェショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)は歯科医院でおこなう代表的なプラークコントロールです。PMTCでは歯磨きだけでは落としきれないプラークを、専用の機器を使って隅々まで取り除いていきます。またPMTC後しばらくは歯面がツルツルと滑らかな状態が続くため、プラークが付着するのを抑えることができます。
■スケーリング(歯ぐきより上の歯石除去)
スケーリングでは歯ぐきより上に付着した歯石を、超音波スケーラーなどを用いて取り除いていきます。歯石の表面は細かい凹凸が多く、そこに細菌が付着してプラークを形成しやすくなります。したがって定期的に歯石を落としてプラークの発生を抑えることも、プラークコントロールでは重要です。
■SRP(歯ぐきより下の歯石除去)
SRP(スケーリング・ルートプレーニング)では、歯ぐきより下に付着した歯石を除去します。歯周病の進行により歯と歯ぐきの間に「歯周ポケット」と呼ばれる溝ができてしまうと、ポケット内にプラークや歯石がたまりやすくなります。歯周ポケット内は歯ブラシの先が届かないため、定期的な歯科医院でのケアが必要です。
「食習慣の改善」もプラークコントロールに有効
以上の方法はいずれも“付着したプラークを取り除くこと”がその主な目的となりますが、一方でプラークコントロールでは“プラークを必要以上に増やさないこと”も有効な手段となります。
このプラークを増やさない取り組みの1つが食習慣の改善で、具体的には「糖分を控えること」「歯ごたえのある食品を取り入れること」などが挙げられます。
プラークは成熟する過程で粘り気を持つようになりますが、それはある種の細菌が食べ物に含まれる糖分から作りだす「不溶性グルカン」という物質が元となっています。
不溶性グルカンのネバネバとした性状は細菌が密着するのには好都合で、これによりさらに多くの細菌が集まり、プラークの量を増やしていきます。
つまりプラークを増やさないためには、できるだけ糖分を含む食品を控えることも重要になるわけです。
また軟らかい食品を好む食生活はおのずと噛む回数が減り、唾液の分泌量が減少させます。“天然のクリーニング剤”である唾液が減少すると、口内に食べかすや細菌がたまりやすく、これによりプラークの量も増加してしまいます。
したがって1回の食事に1品は歯ごたえのある食品を取り入れ、唾液の分泌をうながしてあげると、良好なプラークコントロールが維持しやすくなるでしょう。
プラークコントロールが不十分で起こる事例
プラークは“細菌の塊”であるため、その量がうまくコントロールされないと口内ではさまざまなトラブルが引き起こされます。以下にその具体的な内容をご紹介していきましょう。
虫歯や歯周病になりやすい
歯科の2大疾患である「虫歯」「歯周病」は口内の細菌が引き起こす病気で、これらはともにプラークの中で生息しています。したがってプラークコントロールが不良であると、虫歯や歯周病になりやすいほか、治療で治しても再発するリスクが高くなります。
口臭が強くなる
プラークの中には強烈なニオイのガス(揮発性硫黄化合物)を作りだす菌が存在しています。口臭のおよそ9割はこれらの細菌がつくるガスが原因であり、プラークコントロールが不十分なままだと、おのずと口臭も強くなります。
▶虫歯になると口臭がする?の詳細は「虫歯になると口臭がするって本当?口臭の原因と対策」の記事をご確認ください。
プラークが「歯石」に変化する
プラークは長く放置されると、唾液の成分が吸着して「歯石」に変化します。歯石そのものは歯や歯ぐきに害を与えませんが、そのデコボコした表面は細菌の温床となりやすく、さらなるプラークの増加につながってしまいます。またプラークが歯石になると歯ブラシでは落とせなくなるため、歯石になる前にプラークコントロールを徹底しておくことが重要です。
まとめ
プラークコントロールは虫歯や歯周病、口臭などお口にまつわるトラブルを予防すると同時に、歯周病においては病状を改善、もしくは進行を抑える役割を担っています。そのプラークコントロールにはご家庭でおこなうセルフケアと、歯科医院で行うプロフェッショナルケアがあり、この2つを成り立たせることでその効果を発揮していきます。ぜひ毎日の歯磨きに、歯科医院での定期的なメンテナンス(クリーニング)を習慣づけていきましょう。
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■歯周病治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/shishubyochiryo-interview
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【コラム執筆・監修者の紹介】
影向 美樹
歯科医師免許取得後、横浜・京都の歯科医院にて10年ほど歯科医として勤務。現在は歯科分野を中心とした医療系Webライターとして活動中。