歯周病の症状とは?膿や出血は歯周病が原因?
歯周病は病状が進行するまで自覚症状に乏しく、異変に気づいたときには「手遅れになっていた」というケースもめずらしくありません。 “サイレント・ディジーズ(沈黙の病)”とも呼ばれる歯周病は、ほんのわずかな症状も見逃さず、早い段階で適切な治療を受けることが肝心です。
ここでは「歯周病の症状」をテーマに、病状の進行にあわせてどのような症状がみられるか、またなぜそのような症状があらわれるのかなどを詳しくご紹介していきます。
「歯周病」「歯肉炎」「歯槽膿漏」「歯周炎」の症状の違いは?
ここでは、歯周病以外に「歯肉炎」「歯周炎」「歯槽膿漏(しそうのうろう)」など似た名前の病気がいくつかあります。まずはこれらの病名を整理し、病状ごとの症状の違いなどを解説していきましょう。
歯周病は「歯肉炎」と「歯周炎」に分類される
歯はその周りを歯ぐき、セメント質、歯根膜、歯槽骨の4つの組織に囲まれており、これら4つの組織はまとめて“歯周組織” と呼ばれています。「歯周病」はこの歯周組織に起こる病気の総称で、病気の進行具合に応じて「歯肉炎」と「歯周炎」の2つに分類されます。簡単にまとめると“歯周病=歯肉炎+歯周炎”ということです。
これをふまえ、以下に歯肉炎と歯周炎の病状や症状の違いなどをまとめていきます。
■歯肉炎の症状
歯肉炎は歯周病の初期の段階に当たります。歯周病は口内に生息する歯周病菌によって組織に炎症が起こる病気ですが、その炎症が “歯ぐきのみ”に起こっている状態が歯肉炎です。
歯肉炎の代表的な症状としては、歯ぐきの赤みや違和感、歯ぐきからの出血などが挙げられます。歯ぐきの一部が赤く腫れているように見えたり、歯ぐきがむずがゆく感じたりしたら歯肉炎である可能性が高いといえます。ただ症状そのものは非常に軽く、「とくに気にならない」という方のほうが多いようです。
歯肉炎はこの段階で徹底したブラッシングなど適切な処置をおこなえば、元の健康な歯ぐきへと回復できます。一方で症状に気づかないまま放置すると、「歯周炎」へと進行していきます。
■歯周炎の症状
歯周炎では、これまでは歯ぐきに見られた炎症がその奥のセメント質、歯根膜、歯槽骨にまで広がっていきます。病状が進行するにつれこれらの組織が破壊され、歯と歯ぐきの間には「歯周ポケット」と呼ばれる深い溝が形成されます。さらに歯を支える歯槽骨の破壊が進むと、やがて歯が維持しきれなくなり、最終的には歯が自然に抜け落ちるか、抜歯に至ってしまいます。
歯周炎では歯肉炎のときよりも歯ぐきの腫れや出血がひどくなるほか、歯ぐきの痛みや食べ物が噛みにくいといった症状が顕著にあらわれます。さらに病状が進むにつれ「歯がグラグラする」「歯ぐきから膿が出る」「口臭が強くなる」などの症状がではじめます。
歯周炎は病状が進行するほど治療による完治が難しく、また一旦は症状が落ち着いても再発しやくなります。したがってまだ症状が軽い段階で治療をおこない、進行を食い止めることが肝心です。
「歯周病」と「歯槽膿漏」はどう違う?
歯磨き粉のCMなどでは「歯槽膿漏(しそうのうろう)」という言葉もよく耳にしますが、これは広い意味においては歯周病と同じです。歯周病のうち歯周炎が重度まで進行すると、歯ぐきから膿が出る症状があらわれることから、 “膿が漏れ出る”という意味の「歯槽膿漏」という名称がつけられました。
かつては「歯槽膿漏」という言葉が一般に広く用いられましたが、厳密に区別するなら歯槽膿漏は歯周病の中でも“重度の状態”を意味することになります。
歯周病の代表的な症状:歯ぐきの腫れ・出血
歯周病の症状のうち、初期から重度まで共通してみられるのは歯ぐきの腫れや出血です。とくに「歯磨き時の出血」は歯周病の初期(歯肉炎)によくみられる症状ですので、軽く考えずに早めに歯科を受診しましょう。
なぜ歯ぐきが腫れたり出血したりするのか?
口内の歯周病菌が歯ぐきに感染すると、歯ぐきの中には細菌を排除するべくさまざまな免疫物質が送られます。これが一般に“炎症”と呼ばれる体の防御機能で、炎症が起こった部位では免疫物質を集結させるために血流が増大し、それが歯ぐきの赤みや腫れとなってあらわれます。また細菌の吐きだす毒素や炎症物質によって血管がもろくなるため、わずかな刺激でも出血しやすくなります。
歯周病以外で出血の症状ある場合
歯周病以外で出血がみられるケースとしては、歯や歯ぐきの外傷(ケガ)、または過度な圧でのブラッシングなどが考えられます。このようなケースでは出血とあわせて歯ぐきに痛みをともなうのが特徴です。ただし自身での判断は難しいため、歯ぐきに腫れや出血がある場合は早めの受診を心がけてください。
歯周病の代表的な症状:歯が揺れる(歯の動揺)
歯周病の症状で、次に多くあらわれるのが歯の揺れ(動揺)です。歯周病の検査でも歯の揺れの程度を調べ、病気の進行度を判別していきます。
歯が揺れる原因とその症状
歯周病が歯肉炎から歯周炎へと移行すると、歯の周囲にある歯槽骨が破壊されていきます。この破壊が大きくなるにつれ、骨は歯を維持しきれなくなり、結果として「歯がグラグラする」といった症状を招いていきます。最初は「食べ物が噛みにくくなる」といった異変からはじまり、そのうち指で触れると歯に揺れを感じるようになります。
歯周病以外で歯が揺れる場合
歯周病以外で歯が揺れる原因としては、転倒や衝突などによる歯の外傷が挙げられます。このような外傷は受傷してから短時間で適切な処置をおこなうことで、歯を元の状態に修復することが可能です。
反対にケガをしてから時間が経ってしまうと、揺れた歯が元に戻らなくなるため注意が必要です。歯周病の有無にかかわらず、歯に揺れの症状がある場合は時間を空けずに早めに歯科を受診しましょう。
歯周病の代表的な症状:膿が出る
歯周病のうち、中等度~重度の歯周炎では歯ぐきから膿が出る症状があらわれます。
なぜ膿がでるのか?膿がでる部位は?
歯周病で炎症が起こると、歯ぐきの中ではさまざまな免疫細胞が活発に動きだします。なかでも活躍するのが白血球で、細菌と戦って壊れた白血球や死んだ細胞が「膿」となって放出されます。歯周病では歯と歯ぐきの間に生じる歯周ポケットの中から、黄白色や黄緑色の膿が湧きでる様子を確認できます。
歯周病以外で膿が出る場合
膿は歯周病以外でも、口内で炎症を生じた部位にみられます。代表的なものでは、失活歯(神経が死ん歯)にみられる根尖性歯周炎です。根尖性歯周炎では歯の根っこの先に膿がたまり、その膿の袋が大きくなると歯ぐきの外側に膿が放出されます。また親知らずの周囲に生じる炎症でも、歯ぐきのすき間から膿が出て、口内に不快な味やニオイを感じることがあります。
歯周病の代表的な症状:口臭
口臭には、生きている人であれば誰でも持っている「生理的口臭」と、何らかの病気が原因で口臭が強くなる「病的口臭」の2つがあります。このうち病的口臭を引き起こす最大の原因が歯周病です。歯周病では中等度以上の歯周炎で、平常時よりも口臭が強くなる傾向があります。
歯周病で口臭が強くなる原因
口臭は、口内の細菌がつくりだす「揮発性硫黄化合物(VSC)」という物質がニオイの元になっています。VSCの代表的なものに、「硫化水素(卵の腐ったニオイ)」「メチルメルカプタン(玉ねぎの腐ったニオイ)」「ジメチルサルファイド(生ゴミのニオイ)」の3つが挙げられます。
生理的口臭では呼気中に硫化水素の割合が多くなるのが特徴ですが、歯周病になるとそれよりもさらにニオイの強いメチルメルカプタンの割合が増大します。これにより歯周病では、周囲の人を不快にするほど強い口臭を発しやすくなります。
歯周病による口臭のケアの方法
歯周病による口臭では、歯磨きやマウスウォッシュなどの従来の口臭ケアで多少のニオイは抑えられても、口臭そのものを改善することはできません。病的口臭の改善では、口臭の原因となっている病気(歯周病)を治療することが最優先となります。したがって自身の口臭が気になりだしたら、早めに歯周病の治療を受けましょう。
まとめ
以上のように、歯周病にはいくつかの代表的な症状がありますが、ただこれらには歯周病がある程度進行しないと自覚されないものも含まれています。歯周病の怖いところは自覚症状が乏しい点であり、わずかな異変に気づかないまま放置した結果、歯が残せないところまで進行してしまうケースも少なくありません。本記事を参考に、歯や歯ぐきに異常を感じたら、早めに歯科医院を受診するよう心がけましょう。
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■他の歯周病治療のコラム:https://teech.jp/column/shishubyochiryo
■歯周病治療の歯科医師インタビュー:https://teech.jp/interview/shishubyochiryo-interview
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【コラム執筆・監修者の紹介】
影向 美樹
歯科医師免許取得後、横浜・京都の歯科医院にて10年ほど歯科医として勤務。現在は歯科分野を中心とした医療系Webライターとして活動中。