【神経の治療(根管治療) マイクロエンド歯科(東京都台東区上野)院長 NPO法人ECJ理事長 渡邉征男先生】
今回は歯の神経の治療「歯内療法(根管治療)」について、歯内療法(根管治療)のみを専門で治療されているマイクロエンド歯科の院長で、NPO法人ECJ(Endodontic Center of Japan)(※1)の理事長である渡邉征男先生に歯内療法(根管治療)についてお話を伺いました。
※根管治療は歯内療法の一部の治療ですが、インタビュー内容では歯内療法より根管治療の方が患者さんにとって一般的な言葉のため、歯内療法のことを根管治療に置き換えている箇所があります。
Q1.先生はなぜ歯科医師になられ、そして根管治療を専門とされたのでしょうか?
親類に医療関係者が多く、自然と医療に携わる職種に興味をもったことが歯科医師を目指すきっかけです。
そして根管治療を専門とするようになった背景は、もともとは普通の一般歯科で開業し予防を重視した治療をしていましたが、どんなに予防したとしても神経の治療が絡んだ患者さんは歯を失ってしまう場合がありました。
あるとき、当時の私では治せない神経の治療があり、治せる歯科医師を探していると、アメリカの歯内療法専門医教育を受けた先生に出会いお願いしました。後日、患者さんが完治し戻って来られたことに驚き、その先生に話を聞くと、日本での神経の治療の質が世界標準よりも著しく低いことがわかり、日本国民が良い神経の治療を受けられていない事に問題意識を感じ神経の治療の分野に進むことを決めました。
Q2.歯科治療において、先生が大切にしていることは何でしょうか?
「自分や自分の家族が受ける医療=患者さんに提供する医療」となることと、「患者さんの自己決定権を尊重する」ことです。
Q3.根管治療は歯科治療の中で難易度が高いといわれていますが、そうなのでしょうか?
歯の状態・歯の部位によって変わるので一概には言えませんが、根管治療はある意味昔から治療法は確立されており、本来であれば教育を受けた歯科医師が適切な環境と方法で処置をすれば成功率は高いものです。
最近ではマイクスコープ(根管治療で使用し、歯の神経の中を見ることのできる大型顕微鏡のこと)を使用し治療することが多いですが、マイクロスコープが登場する前でも、ラバーダム(根っこの治療を行う歯に対して被せるゴムシート)を使用し無菌的な状態で治療すれば成功確率は高い治療です。
ただ、小さい歯の中の根管系(神経)は無数に枝分かれしており、見えない部分を細かい作業で処置しなければならない診療であるため、全ての歯科医師が簡単にできる処置ではないのは事実だと思います。
Q4.再発が散見される歯の神経の治療ですが、歯の神経の治療はよく再発するのでしょうか?
細菌感染していない状態での治療であれば高い成功率が得られます。
その場合、再発は起きにくいです。しかし、最初からすでに細菌感染してしまっている神経の治療の場合は成功率が下がる傾向があり、治らずに再発するような事になるでしょう。
Q5.日本で一般的に行われている根管治療と根管治療の最先端をいっているアメリカで行われている治療の違いはありますでしょうか?
まず、決定的な違いは社会的な要因かと思います。日本は国民皆保険制度があり、世界標準と比較しても明らかに安価な治療費で歯内療法の診療が日本全国で行われています。そして、薬事法などの法的なルールも存在するため、保険診療で神経の治療を受けるとなると診療時間の問題や設備など含め良い環境で診療が行うのは簡単ではありません。
特に根管治療の分野では細菌が病気を発症させるため、無菌的な環境(菌が歯の内部に入らないようにする環境)が非常に重要になります。その際に使用するラバーダム(ゴムのマスク)の使用率が著しく低かったり、長時間の診療時間を確保できないなどを考えると、今の保険診療では全国どこでも万民に対して万全な環境で神経の治療がなかなか受けられないと思われます。
一方、アメリカの場合は、逆に医療費が高いということもあり、良い環境で診療に時間をかけられる面はあるでしょう。
その他に重要なのは歯内療法に関する教育の違いや専門医制度も関わってくると思われます。
アメリカでは専門医制度があり、GP(オールランドで色々な診療をする歯科医師で、日本でいう一般歯科のこと)と歯内療法専門医(根管治療のみを専門に行う歯科医師)が連携して診療するスタイルが確立しています。
具体的には、難しい症例は「エンドドンティスト(根管治療のスペシャリスト=専門医)で受けてきて」とGPの先生から紹介され、根管治療が終わったあとに元のGPの歯科医師に戻って詰め物を被せたりする感じです。
ただし、ただでさえ高いアメリカの医療費に加えてさらに医療費がかかり高額になるため、診療が受けられない人が多かったり、神経の治療を選択せずに抜歯したりすることもあり、必ずしもアメリカの医療が優れている訳ではありません。
しかし、一貫した専門医教育は非常に優れていると思います。
徹底した科学的根拠に基づいた座学と病院での臨床のトレーニングがそれぞれの大学で、ある一定の高い基準で行われているため、治療技術のばらつきが少ないと思われます。
Q6.渡邉先生が理事長をしているNPO法人ECJ発足についてお聞かせください
冒頭に話した通り、私が根管治療で治るかわからない難症例をアメリカの歯内療法専門医の先生に紹介し、きちんと治ったという体験したことがあります。その際にあまりにもレベルの違いを感じたため、その後はどんどん難しい症例の患者さんは歯内療法専門医へ紹介する選択肢を患者さんに提供し、実際に患者さんが治って満足されることを多く経験しました。
このような経験から一般歯科と歯内療法(根管治療)を専門としている医院が連携し、一般歯科から歯内療法(根管治療)を専門としている医院を紹介する文化・仕組みが広がれば、日本全国で神経の治療で困っている患者さんがより救われるのではないかと思い、高橋宏征先生(ひので歯科医院 / 群馬県伊勢崎市 Teechでの医院ページhttps://teech.jp/hospital/61661)と協力し、NPO法人ECJ発足させました。
Q7.ECJの発足で、患者さんの根管治療に対する知識は増えていますでしょうか?
ECJの発足により、少なくとも一部の方は歯内療法(根管治療)を専門としている医院を見つけられたり、コラムなどを読んでもらい根管治療についての理解を深めることに役立っているとは思っています。そして少しずつですが、認知されはじめていると思われます。
ただ、まだ歯内療法(根管治療)を専門としている医院の数自体が少ないのと、どうしても都市部に集中してしまう傾向があり、まだまだ一般的に歯内療法(根管治療)という分野の治療があることや、歯内療法を専門としている医院があるという認知はアメリカと比べてまだ低いとは思います。
Q8.根管治療は今後(将来)どのようになっていきますでしょうか?
【根管治療として】は、引き続き最先端のアメリカで行われている治療方法が日本に入ってき、また、良い設備・材料があるので、歯の神経の治療はさらに治りやすい方向に向かうと思います。
また、中途半端な根管治療(ラバーダム使用しないなどの治療)を行う歯科医師は評価されない時代になると思っています。
【患者さんから根管治療をみる】と、今までの啓発により患者さんが歯に対する知識増え、また、今までよりも患者さんの残存歯数は増えているため、神経の治療のニーズは増えると思います。そして健康観の向上により良い治療を受けたいというニーズも増えると予測しています。
【歯科医師として】は、医科では、かかりつけ医は難しい治療を大学病院などに紹介する医療連携をしながら治療に向き合っていますが、歯科もアメリカと同じように難しい治療は一般歯科から根管治療を専門としている医院に紹介する医療連携の流れになるのではないかと思っています。
医療連携ができている歯科医院では、治療を始める前に「ここまでの症状ならかかりつけの一般歯科が治療し、これ以上の症状なら根管治療を専門としている医院に紹介する」と事前に患者さんに説明しており、治療前にしっかり患者さんに治療方針の情報を伝えておくと医療連携がしやすくなると思っています。
【歯の状態・治療費の観点から】は、抜歯も立派な治療であるため、根管治療を選択しないで抜歯を選択する人が増える可能性もあります。
Q9.NPO法人ECJで、きちんと根管治療を行ってくれる歯科医院の選び方(※2)を提示したのはなぜでしょうか。
1つは全国の患者さんが適切な根管治療を受けられるために患者さんにとってわかりやすく理解してもらい、歯科医院選びの一助となるように提示しました。
もう1つは自分達(歯科医師)に対しての戒めの効果もあるかもしれませんね。
Q10.歯医者に直接行かなくてもネット上で根管治療をしっかりやっていることがわかるポイントはありますか?
難しいですが、下記の方法で探すのがいいと思います。
・根管治療しかしていない歯科医師がやっていること(歯内療法・根管治療専門の歯科医院)
・根管治療しかしていない歯科医師と連携していることが明確である
・ラバーダム防湿とマイクロスコープを利用していることが明確である
(歯の神経が細菌感染していない状況などマイクロスコープが必要ではない場合もあります)
・アメリカの歯科大学の歯内療法科に留学しアメリカの専門医の資格を持っている
・1日にのうちどれぐらい根管治療を行っているか?がHPでわかる
・治療に関する説明・同意書が用意されている(インフォームドコンセント)
・治療を急がない(患者さんに考える時間を与える)
・代替手段を提示してくれる
といった感じでしょうか。NPO法人ECJが提示したコラム(※2)に近いですね・・・。
ただ、上記した医院・医師でなくても治るケースもたくさんありますし、一般歯科の歯科医師の方でもしっかり根管治療をされている歯科医院もありますので、ポイントを挙げるのは難しいところです。(苦笑)
Q11.一般的な歯科医院で根管治療をするのと、根管治療を専門としている医院で治療することの違いがありますでしょうか。
根管治療を専門としている医院での治療は、紹介する医院から評価されるので、専門の医院は紹介された医院・医師からの厳しい目があり、失敗できないというプレッシャーがある上で治療にあたります。
一方、一般歯科の歯科医師は自分で自分の治療を評価します。
つまり第三者のプロの厳しい目が入っているかどうかの違いが出てくると思っています。
ただ、根管治療を専門としている医院が絶対ではなく、先ほどもお伝えしたように一般歯科の歯科医師の方でもしっかり治療されている歯科医院はあります。
Q12.最後に患者さんに向けてメッセージをお願いします
歯の神経に関して、今までは患者さんは治療の選択の余地がなかったり、また、知らない間に神経の病気になっていたり、抜歯になってしまったりしていました。
しかし、今では根管治療の分野に関しては正しい手段はかなり明確になっており、正しい事を正しく行えばかなりの成功率が高まることがわかっています。
そして、世の中の価値観が多様化し色々なニーズが出てきています。それに伴い歯科医院も医療技術や設備の改善などサービスもかなり向上して良くなっています。
しかし、「安い・早い・質が高い」の全てを歯科医院に求めるにはどうしても無理があります。
それらを踏まえた上で、良い治療を受けるには、患者さん自身が積極的に情報を求め治療に参加する姿勢が重要だと思います。
積極的に情報を取りに行ったにもかかわらず、ネット上で誤った情報、偏った情報にまどわされることがあります。そうした時はかかりつけの医師に相談したり、セカンドオピニオンを受けたりして正しい情報をもらってください。その上で治療する先生を決めたら、その歯科医師を頼ってほしいと思います。そこまで考えて決めたなら、その歯科医師はしっかり治療をしてくれると思いますので、信頼しすべてをゆだねてもいいと思います。
積極的に治療に参加し、信頼できる良い歯科医師さんに出会えることを祈っております。
【マイクロエンド歯科 渡邉征男先生について】
■マイクロエンド歯科
〒110-0005 東京都台東区上野6-6-8 昭和ビル1F
マイクロエンド歯科 Teech掲載ページ【https://teech.jp/hospital/32739】
マイクロエンド歯科 医院ホームページ【http://www.microendo.jp/】
■略歴
日本大学松戸歯学部卒業
医療法人社団 明征会 マイクロエンド歯科(歯内療法・根管治療のみ治療)
■認定医
PESCJ歯内療法認定医
■所属
アメリカ歯内療法学会(AAE) 会員
日本歯内療法学会(JEA) 会員
NPO法人Endodontic Center of Japan 理事長
日本歯科大学 非常勤講師
石井歯内療法研修会 インストラクター
※1 NPO法人ECJについて(公式HP:https://www.ecj.or.jp/)
広く一般市民、歯内療法施術者等に対して、歯内療法の啓発並びに情報の提供に関する事業、歯内療法施術者の知識・技術の向上のための支援に関する事業を行い、歯内療法分野の質の向上と国民の保健・医療の増進を図り、もって広く公益に寄与することを目的とするために発足したNPO法人
※2 NPO法人ECJのコラム
・きちんとした根管治療を行ってくれる歯科医院の9つのポイント(基本編)http://urx.blue/MPVz
その1”話を聞いてくれる”
その2”目で見るだけでなくいくつかの診査を行う”
その3”レントゲンを撮影し、病気の状況の説明がある”
その4”治療後の予後の見通しの説明がある ”
その5”術後の痛みの可能性など、その対応の説明がある”
その6”治療法について説明がある”
その7”根管治療以外の治療方法やその他の選択肢について説明がある”
その8”質問をする機会や雰囲気に問題がない”
その9”治療に関する説明・同意書が用意されている (インフォームドコンセント)”
・きちんとした根管治療を行ってくれる歯科医院の4つのポイント(応用編)http://urx.blue/NOVh
その1”滅菌等の環境整備がなされている”
その2”ラバーダムを使用している”
その3”マイクロスコープの使用している”
その4”1日のうちどれくらいの割合で根管治療を行なっているか?”