子どもの口呼吸は歯並びに影響する?家庭で気づくサインと受診の目安
テレビに夢中になっているときや眠っているとき、お子様の口がぽかんと開いていることに気づき、「うちの子は口呼吸かもしれない」と気になっている保護者の方もいるのではないでしょうか。歯科検診で歯並びとあわせて指摘され、何から始めればよいか迷っている方もいるはずです。
口呼吸は、単なる癖にとどまらず、お口の筋肉のバランスを通じて歯並びやあごの発育に影響することがあります。また、アレルギー性鼻炎などの鼻の病気が背景にあり、口で呼吸するしかない状態になっている場合もあるため、原因に合わせた対応が大切です。
この記事では、口呼吸が歯並びに影響する仕組み、家庭で気づけるサイン、そのままにした場合に考えられるリスク、家庭でできる取り組みと相談先の選び方までを順に整理します。影響の現れ方には個人差があるため、気になる様子があるときは、かかりつけの歯科医師や耳鼻咽喉科医に相談しながら進めましょう。
なぜ口呼吸で歯並びが悪くなるのか?お口の筋肉と骨格の仕組み
まずは、口で呼吸する状態がなぜ歯並びに影響するのか、お口の筋肉と骨格の仕組みから整理します。
歯並びを決める舌の位置と唇の押し返す力のバランス
歯は、内側から押す舌の力と、外側から押さえる唇や頬の力のバランスがとれた位置に並んでいます。安静時に鼻で呼吸できている場合、唇は軽く閉じ、舌は上あごに触れる位置にあることが望ましいとされています。この状態では内側と外側の力が釣り合うため、歯列は安定しやすい環境にあります。
鹿児島大学によると、口を閉じる力が弱いと、歯を取り囲んでいる唇・頬と舌の力のバランスが崩れ、歯並びやかみ合わせの乱れにつながることがあります。歯の位置には、力の強さだけでなく、力が加わる時間や頻度も関係します。弱い力でも毎日長い時間かかり続けると、歯の位置は少しずつ変わります。
口呼吸が引き起こすあごの発達不足と歯列への影響
口で呼吸をしているあいだは、唇が開いたままになり、前歯を外側から押さえる力が働きにくくなります。同時に、空気の通り道を確保するために、舌は上あごから離れた低い位置に下がります。前の項目で紹介した舌と唇・頬の力のバランスが変化した状態です。
成長期のあごの骨は、噛む・飲み込む・呼吸するといった毎日の口の使い方の影響を受けながら育つ途中です。舌が低い位置にある状態や唇が閉じにくい状態が長く続くと、上あごの歯列が狭くなったり、上の前歯が前方へ傾いたりすることがあります。済生会も、口呼吸が原因で歯並びが悪くなる例もあると説明しています。
歯並びだけじゃない?口呼吸がもたらす顔立ちや全身への影響
舌や唇の筋肉のバランスが関わるのは、歯が並ぶ位置だけではありません。鹿児島大学の研究者は、全国調査の分析から、口を閉じる力が弱いお子様には、鼻が低い、口元が突出している、あごが後方に下がっているといった顔立ちの特徴がみられたと報告しています。済生会も、口呼吸が原因で口元の締まりのない顔つき(アデノイド顔貌)になる例もあると説明しています。
ただし、顔立ちは生まれもった骨格の個人差が大きく、口呼吸だけで決まるわけではありません。仕組みとして知っておきたいのは、呼吸の仕方が口の周りの筋肉の使い方を変え、その影響が歯列やあご、顔立ちにまで広がり得るという流れです。口の中の乾燥や風邪のひきやすさなど、生活面への影響は後の章であらためて整理します。
【家庭でチェック】お子様が口呼吸をしているときのサイン
口呼吸かどうかは、家庭での何気ない場面に表れます。ここでは、日中・睡眠中・鼻の状態の3つの視点から、確認しておきたいサインを整理します。
日中に見られるサイン(ポカン口・食べ方・口の乾き)
日中は、お子様が何かに集中している場面を観察してみましょう。次のような様子は、口呼吸をしているときにみられるサインとして挙げられます。
・テレビや遊びに夢中になっているとき、口がぽかんと開いている
・唇にしまりがなく、いつも半開きになっている
・食事のとき、口を開けたまま音を立てて食べる
・口の中や唇が乾きやすい
口がぽかんと開いている状態は、口を閉じる力が十分に働いていない状態で、専門的には口唇閉鎖不全と呼ばれます。新潟大学などが行った全国調査では、3~12歳の子どもの30.7%に口唇閉鎖不全が疑われ、その割合は年齢とともに増加する傾向がみられました。この調査では、唇にしまりがない、音を立てて食べるといった項目が、お口ぽかんと関連していたと報告されています。
当てはまる様子があっても、その場で問題があると決まるわけではありません。まずは、どのような場面で口が開いているか、頻度とあわせて数日間様子をみましょう。
睡眠中に見られるサイン(いびき・口の乾燥・眠りの様子)
眠っているあいだは、呼吸の様子をそのまま観察できる時間帯です。寝入ってしばらくしてから、次のような様子がないか確認してみましょう。
・口を開けたまま眠っている
・いびきをかく日が続いている
・朝起きたとき、口の中やのどが乾いている
・しっかり寝たはずなのに、日中に眠そうにしている
済生会によると、鼻の一番奥にあるリンパ組織のアデノイドが大きくなると、鼻づまりや口呼吸、いびきといった呼吸に関わる症状が現れ、睡眠時の呼吸がうまくできずに寝不足や日中の集中力の低下につながることがあります。いびきが毎晩続く場合や、眠っている途中で呼吸が止まっているように見える場合は、受診を先延ばしにせず、耳鼻咽喉科に相談しましょう。
一見関係なさそうな鼻づまりやアレルギーとの関連性
口呼吸の背景には、癖だけでなく、鼻の病気が隠れていることがあります。鼻がつまっていて、口で呼吸するしかない状態になっているケースです。
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によると、アレルギー性鼻炎では、くしゃみ・鼻水・鼻づまりが主な症状となり、鼻がつまると口で呼吸するため、のどの渇きや痛みなどの症状が出ます。さらに、不眠や授業中の居眠り、イライラ感、集中力の低下など、学業への影響が出ることもあるとされています。
前の項目で触れたアデノイドの肥大も、鼻づまりから口呼吸につながる原因のひとつです。鼻がつまったままでは、口を閉じようと意識しても続けられません。口呼吸のサインに気づいたら、癖と決めつける前に、鼻の症状がないかをあわせて確認することが大切です。
口呼吸をそのままにするとどうなる?考えられるリスクと変化
ここでは、口呼吸が続いた場合に考えられる変化を、歯並び・お口の環境・成長期の骨格の3つに分けて整理します。いずれも口呼吸があれば起こると決まっているものではなく、現れ方には個人差があります。
歯並び(咬合)への影響:出っ歯・開咬・歯列の狭窄など
日本小児歯科学会によると、口呼吸や頬杖、うつ伏せ寝といった毎日の癖が、歯並びやかみ合わせに影響を及ぼすことがわかってきています。歯並びやかみ合わせの変化としては、次のようなものが知られています。
・上顎前突(じょうがくぜんとつ):上の前歯が前方に出た状態で、いわゆる出っ歯のこと
・開咬(かいこう):奥歯をかみ合わせても、上下の前歯の間に隙間があく状態
・上顎歯列弓の狭窄(じょうがくしれつきゅうのきょうさく):上あごの歯列の横幅が狭くなっている状態
日本口腔筋機能療法学会は、舌を前に突き出す癖や指しゃぶりが、開咬や上顎前突を招くと説明しています。口呼吸によって唇が開いた状態や舌の位置の偏りが続くと、口の周りの筋肉のバランスが変化し、上顎前突や開咬、歯列の狭窄などにつながる一因になると考えられています。
どの変化がどの程度現れるかは、癖の内容や続いた期間、あごの成長によって一人ひとり異なるものです。かみ合わせの変化に気づいたときは、自己判断で様子を見続けず、歯科医院で状態を確認してもらいましょう。
お口の環境(むし歯・口臭)や呼吸・睡眠への影響
口が開いた状態が続くと、口の中は乾燥しやすくなります。鹿児島大学によると、口を閉じる力が弱いと、口の中が乾燥して、むし歯や歯周疾患にかかりやすくなるとされています。唾液には口の中を洗い流す働きがあるため、乾燥が続くと、この洗い流す働きが十分に発揮されません。また、厚生労働省の情報サイトでは、口臭は唾液の分泌量と大きく関係していると考えられると説明されています。
呼吸の面でも、影響はお口の中にとどまりません。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によると、鼻づまりなどで口呼吸になると、のどを痛めて風邪をひきやすくなることがあります。同学会は、いびきや集中力の低下、疲れやすさなどの全身的な症状を伴うこともあり、小児の場合は学業や成長にも影響が出ることがあるとしています。
アレルギー性鼻炎などによる鼻づまりが口呼吸の原因になっている場合は、歯科でお口の状態を確認するとともに、耳鼻咽喉科で鼻の症状について相談することが大切です。
お子様の成長期における骨格形成への懸念
あごや顔の骨格が大きく育つのは、成長期のあいだです。この時期の毎日の呼吸や口の使い方は、記事の前半で整理したとおり、歯列やあごの発育と関わっています。
注意したいのは、口呼吸やお口ぽかんが、成長とともに自然になくなるとは限らない点です。新潟大学などの全国調査では、お口ぽかんのあるお子様の割合はむしろ年齢とともに増加しており、自然の改善が期待しにくい疾病である可能性が指摘されています。鹿児島大学の研究者も、小児の口唇閉鎖不全は早期に改善するべき状態だと述べています。
骨格の育ち方には個人差が大きく、口呼吸があるからといって、骨格に影響が出るとは限りません。一方で、成長期は骨格が育つ途中の時期であるため、対応を検討するなら早めに状態を確認しておきたい時期でもあります。気になる状態が続くようであれば、成長の節目を待たず、次の章で紹介する窓口に相談しましょう。
家庭でできる取り組みと、歯科医院に相談すべきタイミング
最後に、家庭で始められる工夫と、相談する窓口の選び方、歯科医院で行われる対応を順に整理します。
今すぐ始められるお口のトレーニングや生活習慣の見直し
家庭での取り組みは、鼻で呼吸できる状態かどうかの確認から始めましょう。前章までで触れたとおり、鼻づまりがあるあいだは口を閉じ続けるのが難しいためです。鼻水や鼻づまりが続いているようであれば、先に耳鼻咽喉科で相談しましょう。
鼻の通りに問題がなければ、生活の中で次のような工夫を取り入れられます。
・口が開いていることに気づいたら、「お口を閉じようね」と穏やかに声をかけ、閉じられたら褒める
・食事では、唇を閉じてよく噛むことを意識できるよう、一口の量や食べ方に目を配る
・遊びを取り入れた口の体操を行う場合は、お子様の状態に合った方法を歯科医院で確認する
こうした工夫は家庭で無理なく始められますが、癖の背景やお口の状態はお子様ごとに異なります。舌や唇のトレーニングを本格的に行う場合は、自己流で続ける前に、歯科医院で指導を受けながら進めましょう。市販の口閉じテープなどのグッズも、鼻の通りに問題がないことの確認が前提となるため、使用前にかかりつけ医への相談が必要です。
耳鼻咽喉科と歯科医院、どちらに相談すべき?
相談先は、口呼吸の背景に何がありそうかで選ぶと迷いにくくなります。目安を表に整理します。
<気になる状態と相談先の目安>
| 気になる状態 | 相談先の目安 |
|---|---|
| 鼻水・鼻づまり・くしゃみが続いている、いびきが強い、眠っている間の呼吸が気になる | 耳鼻咽喉科 |
| 鼻の症状は目立たないが、口がぽかんと開いている、歯並びやかみ合わせ・食べ方が気になる | 小児歯科・矯正歯科 |
上の表はあくまで目安であり、実際の受診の順番は症状によって異なります。鼻の症状と歯並びの両方が気になる場合は、どちらか一方に絞る必要はありません。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、アレルギー性鼻炎について、耳鼻咽喉科医とよく相談して自分にあった治療法を見つけることを勧めています。歯科医院側でも、診察の中で鼻の症状が疑われた場合には耳鼻咽喉科の受診を提案されることがあり、必要に応じて両方の診療科が関わりながら進むケースもあります。
どちらに行くべきか迷って受診が遅れるより、まずは行きやすい窓口で相談することが大切です。かかりつけの小児科や歯科があれば、定期受診の機会に口呼吸の様子を伝えるところから始めましょう。
歯科医院で行う評価・アプローチの概要
小児歯科や矯正歯科では、最初から装置を使った治療が始まるとは限りません。まずは、癖や生活の様子の聞き取り、歯並びとかみ合わせの確認など、状態に応じた評価が行われ、家庭での関わり方について助言を受けられます。
口を閉じる力や舌の位置に課題がある場合には、舌や唇、頬など口の周りの筋肉のトレーニング(MFT:口腔筋機能療法)が取り入れられることもあります。日本口腔筋機能療法学会によると、MFTは、飲み込みや発音、安静時の舌や唇の位置といった口の機能を整えることを目的とした療法です。
歯並びへの影響が大きい場合には、お口の状態に応じて矯正治療が検討されることもあります。どの方法が適しているかや、期待できる変化の程度は一人ひとり異なり、検査・診断をふまえた歯科医師の判断が前提です。鼻の病気が疑われる場合には、耳鼻咽喉科の受診を勧められることもあります。
なお、口呼吸の影響で歯並びの治療(小児矯正)が必要と判断された場合、小児矯正は原則として公的医療保険が適用されない自由診療(保険適用外)です。費用は歯並びの状態や治療計画、装置の種類、医院の方針によって異なり、治療期間や通院回数にも幅があります。自由診療の主なリスクとして、装置の使用に伴う痛みや違和感、清掃が不十分な場合のむし歯や歯ぐきの炎症、成長や装置の使用状況によって計画どおりに歯が動かない可能性、治療後の後戻りなどが挙げられます。治療を検討する際は、費用や治療期間、通院回数、これらのリスクについて十分な説明を受け、確認しておきましょう。
矯正治療の費用の考え方については、下記の記事をご参照ください。
まとめ|口呼吸のサインに気づいたら、原因に合わせて早めに相談を
口呼吸は、舌の位置と唇の押し返す力のバランスを通じて、歯並びやあごの発育に影響することがあります。上の前歯が前に出る、前歯がかみ合わないといったかみ合わせの変化のほか、口の中の乾燥によるむし歯や口臭、風邪のひきやすさなど、影響はお口の中だけにとどまりません。いずれも現れ方には個人差があり、口呼吸があれば起こると決まっているわけではありません。
家庭では、日中のぽかんと開いた口や食べ方、睡眠中のいびきや口の乾燥といったサインが、気づきの手がかりになります。背景にアレルギー性鼻炎やアデノイドの肥大などの鼻の病気が隠れていることもあるため、鼻の症状が続いている場合は耳鼻咽喉科へ、歯並びや口の癖が気になる場合は小児歯科・矯正歯科へ相談しましょう。
お口ぽかんは、成長とともに自然になくなるとは限らないと報告されています。あごや顔立ちが育つ成長期だからこそ、気になるサインに気づいた段階で状態を確認してもらい、お子様に合った関わり方について専門家の助言を受けながら、家庭での工夫を進めましょう。